2017年12月号掲載
3Mで学んだニューロマネジメント 脳科学を活用して組織・人のモチベーションを高める実践方法!
著者紹介
概要
世界的なイノベーション企業として知られる3M。同社のマネジャーとして、多くの部下のイノベーションを成功に導いてきた大久保孝俊氏が、脳科学を活用して組織・人のモチベーションを高める「ニューロマネジメント」を公開。人を操るのではなく、感激させてやる気を起こさせる、新しいマネジメント手法を伝授する。
要約
組織の強みを生かし、個を支援する
イノベーションは未踏分野への挑戦であり、成功するかどうかはやってみないとわからない。そのため、「イノベーションを精緻にマネジメントすることは難しい」と一般には考えられている。
しかし、決してそんなことはない。筆者は長年3Mに身を置いてきたが、その間、イノベーションのマネジメントが大きな効果を上げるのを目の当たりにしてきた。3Mでは、全売上高の3分の1は過去5年以内の新製品が生み出している。つまり、イノベーションによって新製品を生み出し続けることで成長してきたのだ。
そうした3Mでの研究開発と業務改革の経験、および筆者が提唱する「ニューロマネジメント」(脳科学を活用して組織・人のやる気を高める実践方法)を紹介しよう。
組織が個に“武器”を与える
まずトップマネジメントがすべきことは、企業が持つ経営資源(強みの基盤)を使い、イノベーションの主役である“個”を支援することだ。
例えて言うと、組織による支援とは、担当者にイノベーションに挑戦するための“武器”を与えるようなもの。この武器が、成功の確率を高める。
3Mが担当者に与える武器は、「経営資源の情報を社内で共有する仕組み」である。具体的には「テクノロジープラットフォーム」(技術基盤)と「テクフォーラム」だ。
社内技術を一覧できるテクノロジープラットフォーム
3Mは現在、世界で5万5000種類以上の製品を販売している。この膨大な製品に使っている様々な技術を、「研磨剤」「成形加工」など46のテクノロジープラットフォームとして網羅的・系統的にまとめ、イントラネット上で公開している。
さらに、その技術に詳しい社内の専門家の連絡先を記載しているので、電子メールなどで相談できる。助言を求められた専門家は、どんなに忙しくても100%対応する。これは3Mの“掟”だ。
開発中の技術を共有するテクフォーラム
もう1つの情報共有の仕組みが、社内の技術者が直接交流するテクフォーラムだ。前述のテクノロジープラットフォームにはすでに確立した技術が掲載されているのに対し、テクフォーラムは開発中の技術が中心となる。技術者は、テクフォーラムを通じて、自分が手掛ける技術を他の技術者にアピールする。その結果、新用途が開拓できたり、技術に関する助言が得られたりする。
好例が、落ちない付せん紙「ポスト・イット ノート」だ。研究者のスペンサー・シルバーは1968年、「くっつくけれど、簡単に剝がせる接着剤」を発明した。強力な接着剤が目標だったので、目標からすると失敗作だ。だが、この性能が何かに使えると確信した彼は、テクフォーラムで「このユニークな技術は画期的な製品になるはずだ」と発表。それを聞いた工業用テープの研究者アート・フライが、この技術を活用した「落ちない付せん紙」のアイデアを思い付いたのだ。
このテクフォーラムは、技術者が直接運営する。会社は費用を負担するが口は一切出さない。