2018年3月号掲載
なぜ戦略の落とし穴にはまるのか
著者紹介
概要
日本を代表する経営学者が、多くの人がついついはまる“戦略の落とし穴”について語った。「ビジョンを描かず、現実ばかりを見る」「不都合な真実を見ない」「絞り込みが足らず、メリハリがない」…。長年、経営戦略を研究する中で見いだした落とし穴をパターン化して示すとともに、どうすればそれらに陥らないかを説く。
要約
思考プロセスの落とし穴
様々な失敗が経営にはある。その中でも、戦略の失敗は致命的な結果になる危険がある。なぜなら、戦略は企業が組織として事業活動を行うための基本設計図だからである。
その基本設計を間違えると、その後どんな努力を現場でしても、いい結果は望めない。
そこで戦略策定のプロセスで生まれがちな落とし穴を、2つのタイプに整理して述べたい。
第1のタイプは、戦略策定のための「思考プロセス」で待ち構えている落とし穴で、次の4つがある。
①ビジョンを描かず、現実ばかりを見る
戦略とは「いまだあらざる姿」へ向かっての構想である。構想とは「こうありたい」という意思の表現でもある。その思いを、ビジョンと呼ぶ。そのビジョンを実現するための手段や道筋を具体的に工夫するために、戦略を考えるのである。
だが、ビジョンを描くことから戦略思考をスタートさせない人が多い。現状分析から思考をスタートさせ、結果として現実ばかりを見る。それが、戦略の思考プロセスの第1の落とし穴である。
何のために戦略を作るかも明確に意識しなければ、現状の延長線上の戦略が作られがちになるだろう。そして、現実ばかり見ていると、発想が縮こまった戦略を作りがちになる。
過去の経緯、周囲との関係など、時にはしがらみと呼びたくなるような連鎖関係の中で、現状は成立している。そうした現実を分析すると、その連鎖から抜け出す難しさばかりが見えてくる。このため、現状の延長線上の発想しか浮かばなくなり、つまらない戦略になってしまう危険がある。
②不都合な真実を見ない
現実を見る際、歪みが発生しがちなのが普通の人間である。その歪みは「不都合な真実から目をそらす」というものだ。不都合な真実とは、自社の戦略を取り巻く要因の実態として、自社に大きなマイナスをもたらすような真実のことである。
その不都合さゆえに、戦略を構想しようとする人たちがその事態を軽視したり、あるいは直視しなくなったりするということがある。本当は、そうしたマイナスの事態こそ直視しなければならないのにである。
不都合な真実は、あちこちに存在しうる。例えば、顧客のニーズが自社の得意な製品から離れていく、競争相手が自社が対応しにくい競争上の仕掛けをしてくる、技術の世界的動向が自社技術を陳腐化させる方向に動く、などなどである。