2018年6月号掲載
ブルー・オーシャン・シフト
Original Title :BLUE OCEAN SHIFT
著者紹介
概要
苛烈な戦いが繰り広げられる既存市場を抜け出し、競争のない新市場を開拓せよ! と説いた『ブルー・オーシャン戦略』。同書の刊行後、2人の著者は数々の成功・失敗事例を分析し、レッド・オーシャンからブルー・オーシャンへと移行するための手順、体系的なプロセスを導き出した。その成果を紹介した、実践的な1冊である。
要約
「ブルー・オーシャン・シフト」の例
今日、多くの国が犯罪率の上昇、刑務所の過密状態、高い再犯率といった問題に直面している。
これに対し、たいていの政府は刑務所を増やす、量刑の軽い受刑者と極悪犯を雑居させて施設を最大限に活用する、などの方法で対処してきた。だが、どちらもあまり効果的ではない。刑務所の新設は費用がかかり、雑居は犯罪指南の温床となる。
例えばカリフォルニア州は1980年以降、22の刑務所を新設した。今や刑務所の年間予算は90億ドル前後に達している。にもかかわらず、刑務所は過密状態にあり、再犯率は約65%である。
ブルー・オーシャン・シフトを実現する
マレーシア政府は2010年に、これと同じ課題に直面した。そして、課題を解決するには戦略を変えるしかないと悟り、国家ブルー・オーシャン戦略(NBOS)サミットを頼ることにした。政府は前年に、革新的な戦略をいち早く導入する狙いで、NBOSサミットを設けていた。首相や各大臣、官公庁のトップが毎月、一堂に会するのだ。
サミットでは、解決策を探すに当たって、最良の慣行(ベストプラクティス)を参考にするのではなく、業界の基本的な前提を探り出して、再考した。
費用の嵩むセキュリティの厳重な刑務所に代わる、低コストで効果の大きい選択肢はあるだろうか。この問いを掘り下げるうちに、誰も気づかずにいた機会が見つかった。国内の多くの軍事基地内には、厳重なセキュリティ設備の備わった遊休地があったのだ。この遊休地は、軽犯罪者を収容するための施設への転用が可能だった。
また、受刑者の更生についても、従来のように刑務所が行うのではなく、他の役所が対応する方が望ましいことに気づいた。刑務所の職員の専門は監禁と警備であり、教育や訓練ではなかった。
サミットはこれら長年の「常識」を覆すことで、「ブルー・オーシャン・シフト」(レッド・オーシャンからブルー・オーシャンへと移行〈シフト〉するための体系的な行程)を実現し、地域更生プログラム(CRP)を生み出した。刑務所を増設する代わりに、軍事基地内の遊休地に、世界初となる軽犯罪者向けのCRPセンターを設けたのだ。
CRPセンターでは農業省などの協力下で職業訓練を実施し、魚の養殖や作物の栽培を行い、市場で販売している。この研修は、軽犯罪者が犯罪に頼らずに収入を得る方法を伝授するものだ。
CRPはまた、受刑者の家族に、頻繁に面会をするよう働きかけた。従来の刑務所では、面会はガラス窓を隔てて30分までとされている。片やCRPセンターでは、受刑者は配偶者や子供と触れ合うことができる。こうして彼らは心の傷を癒し、更生がどれだけ大切であるかを思い起こすのだ。
その結果、2011年にCRPセンターが稼働して以降、軽犯罪者の再犯率は約90%下がった ―― 。