2018年9月号掲載
さよなら、インターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか
著者紹介
概要
副題「GDPRはネットとデータをどう変えるのか」。GDPRとは、EU(欧州連合)が定めた「一般データ保護規則」のこと。インターネット上の個人データやプライバシーを保護する法律だ。誕生の背景には、IT企業による大規模な利益目的の個人データの利用があった。今ネットの世界で何が起こっているのか? メディア論の泰斗が報告する。
要約
インターネットは何を間違えたのか?
冷戦時代、軍事用の情報通信手段として米国で構想されたインターネットは、1970~80年代、サンフランシスコのベイエリアとシリコンバレーに集うコンピュータ・プログラマーたちにより、世界を善くするツールとして再構築された。
そして、インターネットは世界中の誰ともつながることができるネットワークとなり、また、デジタル経済を成長させるインフラとなってきた。
高まる批判の声
ほぼ30年間の歴史を持つインターネットだが、この間に何かを間違えたようだ。
インターネットの代名詞となったワールド・ワイド・ウェブの発明者であるティム・バーナーズ=リーは、近年の「インターネット・システムは破綻している」と述べた。
VR(バーチャル・リアリティ)というコンセプトを提示したジャロン・ラニアーは、「ソーシャルネットワークのアカウントを今すぐ削除すべき」と断言。フェイスブックの初代社長ショーン・パーカーは、ソーシャルネットワークの設計目的の中には、ユーザーを心理的に操作する危険な思惑が埋め込まれていると指摘した。
2018年1月、スイスのダボス会議(世界経済フォーラム)で投資家ジョージ・ソロスは、フェイスブックとグーグルを、人々の社交環境を悪用する凶悪な企業と語り、「人々の注意を商業目的に向けて操作し、彼らが提供するサービスは意図的に中毒状態をつくることでユーザーを欺いている」と断罪した。さらに、セールスフォースのCEOマーク・ベニオフは、フェイスブックはタバコ会社のように規制されるべきだと語った。
今、インターネットの世界でいったい何が起きているのか?
プライバシーの死
2010年1月、フェイスブックのCEOマーク・ザッカーバーグは「プライバシーはもはや社会規範ではない」と述べ、その後、大きな議論となる「プライバシーの死」を高らかに宣言した。
プライバシーを公開し、あらゆるデータをシェアする世界こそ、真に人々の生活を豊かにし、透明な社会を実現するのか? この疑問を抱えたまま、フェイスブックは現在、20億人を超えるユーザーに支持されている。
グーグルもまた、「プライバシーの死」を目指してきた一員だ。21世紀に入り、個人データを活用した“広告錬金術”で巨万の富を築いてきた。
その間、AI(人工知能)やロボット、IoT(モノのインターネット)、自動運転車に至るまで、ビッグデータの蒐集と解析を基盤とする新たなデジタル経済の全容も明らかになってきた。