2018年11月号掲載
決定版 銀行デジタル革命 現金消滅で金融はどう変わるか
著者紹介
概要
近年、通貨の電子化が進む。そんな中、デジタル通貨を巡る、三つどもえの覇権争いが始まった。ビットコインなどの仮想通貨と、民間銀行、中央銀行が発行するデジタル通貨の争いだ。それぞれの特徴とは? 将来性は? また、キャッシュレス化で金融や社会はどう変わるのか? 元・日銀審議委員がデジタル通貨の今後を見通す。
要約
動き出したメガバンク
今、日本では、「デジタル通貨」の覇権争いが始まろうとしている。
ビットコインに代表される仮想通貨と、民間銀行が発行を目指しているMUFGコインやJコインなどの独自のデジタル通貨、中央銀行が発行する中央銀行デジタル通貨の3つの覇権争いである。
フィンテックの本質は革新的なサービス
デジタル通貨とは、スマートフォンなどの端末機を使って支払いや送金などに利用できる、電子的に記録された“通貨”のことである。
この通貨のデジタル化で大きな役割を担っているのが、近年注目されるフィンテックだ。これはファイナンス(金融)とテクノロジー(技術)を組み合わせた造語で、米国で生まれたとされる。
ATMによる現金の引き出しや振り込み、クレジットカードの利用等々、金融サービスは以前から専門技術があってこそ成り立ってきた。
しかしフィンテックは、そうした伝統的なサービスを支える技術とは一線を画するものだ。その本質は、安くてより良いサービスを利用者に提供する技術であり、実際、シリコンバレーで設立されたフィンテック企業の多くは、預金決済など銀行が従来から提供してきたサービスを利用しながら、より利便性の高い新サービスを提供している。
競争促進へと転換した法整備
諸外国では、フィンテックは金融業界を革新的に変化させる技術・サービスと考えられているが、日本での開発・普及の動きは鈍い。その背景には、銀行、貸金業、保険、証券などの金融業態を縦割りで厳しく規制してきた金融法制がある。
かつて銀行は保険を販売できず、保険会社は個人向け融資を行えなかった。まして、金融機関ではない企業の金融業への参入はあり得なかった。
しかし、この金融法制は異例とも思える速さで見直されつつある。金融庁は、フィンテックを利用したサービスの普及を通じて人々の利便性を高めるための規制緩和へと方針を変えたのだ。今後、銀行などの伝統的金融機関とフィンテック企業の競争が促進されると思われる。
銀行のフィンテック対応
こうした金融庁の方針転換に対し、銀行側はこれまでのところ、独自のデジタル通貨発行、IT企業との連携模索などで対応している。
例えば、三菱UFJ銀行は2017年、独自のデジタル通貨「MUFGコイン」の実証実験を開始した。