2018年12月号掲載
モビリティ2.0 「スマホ化する自動車」の未来を読み解く
著者紹介
概要
今、自動車業界では、車両の大量生産を競う時代が終わりつつあり、デジタル化や環境問題に対応したビジネスモデルの構築に向けて、各メーカーがしのぎを削る。自動車が「人やモノ」を運ぶモビリティ1.0から、「データ」を運ぶモビリティ2.0へ。進展する電動化やライドシェアリングの背景を、自動車アナリストが読み解く。
要約
自動車産業の潮目が変わった
今、自動車関連の話題で「モビリティ」という言葉が使われている。従来、モビリティは人・モノを運ぶものとして捉えられていたが、デジタル化の波が自動車産業にも流れ込んだことで、データを運ぶものとしての新しい意味が生まれた。
そして、世界的に都市への人口集中が進む中、その都市のエコシステム(生態系)の活性化を担うものとして、モビリティの重要性は高まっている。
内燃機関(エンジン)で走る自動車が人やモノを運んでいたのが、「モビリティ1.0」の時代だ。そして今、モビリティは都市のデータを資源とするエコシステムの重要な媒体としての「モビリティ2.0」へと進化した ―― 。
100年ぶりに起きたこと
「100年に一度の大変革」。自動車業界では、この言葉をよく聞く。なぜ100年なのか。
報道を見る限り、この言葉は正確に定義されたものではない。ただ、ここ数年の変化を振り返ると、テスラCEOのイーロン・マスク氏の出現がこの言葉が生まれるきっかけだったのではないか。
同氏が創業したテスラの躍進は衝撃的だった。それは、単にテスラの電気自動車(EV)が売れたからではない。同氏が自動車業界に2つの大変革をもたらそうとしているからだ。
①流通におけるフランチャイズ方式から直販ビジネスへの大転換を行う
約100年前、1908年にヘンリー・フォードは「フォードシステム」といわれる自動車の大量生産方式を確立し、T型フォードの量産を開始した。同時に、フランチャイズ販売方式を取り入れ、ディーラーが世界中で販売した。
この頃から米国では、自動車メーカーが直接顧客に新車を販売することはできず、ディーラーに販売しなければならないとする、「フランチャイズ法」を各州法で定めている。
この古い商習慣に、マスク氏は風穴を開けようとしている。同法を改正し、自動車の直販化を可能にすることで、メーカーが直接顧客と接し、消費者の声を開発に活かすことや、マージンの排除でEVの購買価格を下げることなどを狙っている。
②EVを「復活」させながら、モビリティの新しいエコシステムをつくる
フォルクスワーゲンのビートルやメルセデスのSクラスの生みの親、フェルディナンド・ポルシェ博士。彼が最初につくった自動車は、1900年に開発した電気自動車であった。車輪にモーターを取り付けた、画期的なEVであった。
実は1900年代初頭、ニューヨーク市内のタクシーは全車EVだった。それから100年あまり経った2003年、マスク氏がテスラ・モーターズを創業し、EVを「復活」させた。