2019年12月号掲載

自警録 心のもちかた

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著者紹介

概要

明治時代の教育者であり国際人であった新渡戸稲造が、日々の心の持ち方や人生の要諦をわかりやすく語った修養書。「柔和なる者はこの世を嗣ぐ」「成敗は世人の眼に見えぬ」「勝敗の決勝点を高きに置け」…。豊かな知識と人生経験から導き出された真理は、古びることなく、今を生きる私たちに多くの示唆を与えてくれる。

要約

外は柔、内は剛

 人の世は、多数の人とともに乗り合う渡船のごときものである。人とともにこの世を渡るには、おだやかに意気地ばらずに、譲り得るだけは譲るべきものと思う。

 『菜根譚』は、次のように言う。

 「世に処するには一歩を譲るを高しとなす、歩を退くるは即ち歩を進むるの張本」

 世渡りの秘訣は人に譲るにあると言っているが、実にその通り。自分の権利を最大限に要求することは、卑劣に陥る理由となる。

柔和なる者はこの世を嗣ぐ

 「憎まれ子世にはびこる」という俗諺があるが、これは原因と結果とを転倒している。世にはびこるものは憎まれる、はびこらずに謙遜に柔順であることこそ、真に世に処する妙法である。

 聖書に「柔和なる者はこの世を嗣ぐべし」とある。これは、柔順なる人は永久にこの世の継続者である、ということだ。換言すれば、柔順は永久の徳であり、力をもって世を圧倒するものは、たとえ一時の効はあっても永久には継続しない。

譲られぬところはあくまで固守せよ

 「譲って世を渡れ」とは言うものの、事によっては一歩もまげられぬこともある。また、大切な事柄については一歩もまげるべきでないと思う。

 とかく人は表面に現れたことのみで測るから、人のために譲ると、相手は図に乗ってつけこみ、その人の権利までも犯すことが折々ある。10歩譲ればもう20歩、もう30歩とだんだんに押し出す。ハイハイと言って譲っていくと、ついには溝の中に叩き込まれそうになる。

 種々なる人のなすところを見るに、とかく表面には剛毅を装っているものが、何か事に当たると、たちまちもろく倒れる、松の木が風に折れるのと同じである。これに反し、風のまにまに動く柳は動きながらも本性を失わず、かつ折れることなく、その一生をまっとうする。

 

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