2021年4月号掲載
妄想する頭 思考する手 想像を超えるアイデアのつくり方
概要
アイデアは、自分の中の「妄想」から生まれる! 数々の画期的な発明を世に送り出した研究者が、妄想によって新しいアイデアを生み出す方法を解説する。「やりたいことを1行で言い切る」「既知の事柄をかけ算する」…。経験を踏まえつつ紹介される発想法やそのコツは、研究職のみならずビジネスパーソンにも参考になるはずだ。
要約
妄想とは何か
私の仕事は「発明」である。その発明の中で一番よく知られているのは、「スマートスキン」というマルチタッチインターフェースだろう。
スマートフォンを持っている人なら、この技術は誰でも毎日のように使っている。画面上で2本の指を広げたり狭めたりすることによって、写真などの拡大・縮小ができる技術だ。
私がスマートスキンを発明し、その論文を書いた時(2001年9月)、世の中にはまだスマートフォンは存在しなかった。スマートスキンが初めて商品化されて世に出たのは2007年。アップルの初代iPhoneにその機能が搭載された。
現在から振り返れば、私が2001年の段階で「数年後には小さなパソコンみたいな携帯デバイスが登場するに違いない」と予測していたようにも見えるかもしれない。でも、そうではない。
では、何のためにそれを開発したのか?
私は、何にどう使うかは具体的にイメージできていなかったが、指先でコンピュータの画面を拡大できたら、その方がマウスを使うよりも自然だろうという感覚を持っていた。また、現実世界ではものを1本の指で操作することは珍しいのに、マウスは指1本で操作する。なぜそうした「不自然さ」を当然のように受け入れているのか…。
そういう素朴な疑問から始まったのが、スマートスキンの開発だった。
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今日では、あらゆる分野でイノベーションが必要とされている。そんな中、多くの人が義務感に追い立てられるように、「何か新しいことを考えなければ」と悩んでいるように見える。私はそんな雰囲気に、強い違和感を持っている。
私は研究者として、世の中にない新しいものを生み出す仕事をしている。それは実にエキサイティングで楽しいことだが、必ずしも最初から使命感に衝き動かされてアイデアを考えているわけではない。アイデアは自分の中から勝手に生まれてくる。そう、それは「妄想」から始まるのだ。