2021年5月号掲載
マイクロソフトCTOが語る新AI時代
Original Title :REPROGRAMMING THE AMERICAN DREAM
著者紹介
概要
AI(人工知能)については、明暗、2つの見方がある。人々の仕事を奪う。いや、仕事の生産性を高め、バラ色の未来をもたらす。だが、どちらも「AIの全体像を捉えていない」とマイクロソフトCTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)は指摘。AIの“正体”を明かし、人間とAIの能力を生かした、希望に満ちた未来を語る。
要約
AIの存在目的を知る
人工知能(AI)に関して、広まっているストーリーが2つある。専門技術を持たない労働者の仕事がどんどん失われていくという暗い予想と、知識人や専門家は仕事の生産性と効率を高めていくという牧歌的な予想だ。
しかし、そのどちらも、AIをめぐる物語の全体像を捉えてはいない。私の考える未来は、もっと繊細で、複雑で、希望に満ちている ―― 。
AIが必要な理由
そもそも、AIはなぜ必要か。そこには、根本的な理由がいくつかある。
まず、望むと望まざるとにかかわらず、AIはすでに姿を現しているので、私たちはAI技術の開発を続けなくてはならない。
例えば、Aという国がAIの開発を禁止や制限したのに、Bという国が大型投資を続けたら、A国はB国と比べて生活の質が下がり、国際的な競争力も落ちるだろう。
実際、18世紀末の産業革命初期には、新しい自動機械を積極的に採り入れた国が経済的に有利になった。その差は大きく、今でも工業化した国としなかった国という形で影響は長く続いている。
AIの活用がもたらす恩恵
AIをベースにしたテクノロジーは、蒸気機関以来の有望な技術として、革命と呼べる規模の成長をもたらす可能性を秘めている。蒸気機関という技術をきっかけに、産業革命は本当の意味で走り出した。蒸気機関は、文字どおり爆発的な規模で人間の労働力の代わりになった。AIにはそれと同じインパクトを与える力がある。
テクノロジーは、欠乏と対立、勝者と敗者が必ず出る仕組みを、誰もが豊かさとチャンスを手に入れられる仕組みに変える手段になる。AIはそのための史上最も強力なテクノロジーになる。これはAIの本質を捉える上で一番大切な考え方だ。
AIの活用法は、大きく分けて3つある。
①豊かさを生み出して基本的な欲求を満たす
私たちが今直面している課題の多くは、必要なリソースが足りないことに原因がある。
例えば、気候変動に直面する中で、増え続ける世界人口を養うだけの食料はどう作ればいいのか。最近の国連の調査によれば、2050年の予測人口は90億で、人々を飢えさせないためには、それまでに食料生産を70%増やす必要があるという。