2021年10月号掲載
武器になる情報分析力 インテリジェンス実技マニュアル
著者紹介
概要
「敵を知り、己を知れば、百戦して危うからず」 ―― 。『孫子』が説くように、情報を分析し敵と我を知ることは、勝つための重要な要素だ。では、それは具体的にどう行えばよいのか。防衛省情報分析官を務めた著者が、情報分析の基礎知識と技法を平易に解説。予測不能な時代を生き抜く上で武器になる“思考法”が示される。
要約
情報分析はなぜ失敗するか?
ビジネス市場がグローバルに拡大するなか、ビジネスパーソンにとって、国際情勢を分析する目を養うことは重要である。国際情勢の分析も、ビジネスにおける環境分析も、情報を収集してインテリジェンスを作成するといった情報分析の本質は変わらない。
では、インテリジェンスとは何か? それは「インフォメーションに思考的かつ能動的作用を加えて、判断、決心(決断)および行動をする上で役立つレベルにまで高めた知識」を意味する。
インテリジェンスに相当する的確な日本語はない。防衛省や自衛隊では、インテリジェンスに「情報」、インフォメーションに「情報資料」という訳語を当てて区分している。
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情報分析は失敗することがある。その要因は、例えば次のようなものだ。
情報の氾濫
今日、人々は“情報の氾濫”と格闘している。情報は多いに越したことはない。しかし、インテリジェンスを作成できない主たる原因が情報の氾濫であることも、また事実である。
情報の操作
社会では、ヤラセ報道や捏造記事がしばしば見られる。政治家や国家組織も、国益を守るため、思いどおりの政策を運営するために、意図的に嘘をつく(偽情報)、あるいは断片的な情報を与えて相手を誤解させる(情報操作)ことがある。
例えば、1991年の第一次湾岸戦争では、イラクが国際ルールを無視した国家であることを喧伝するため、ブッシュ(父)大統領は情報操作を行った。クウェート沖から流れ出た原油による「油まみれの水鳥」の写真が世界的に注目されたが、ブッシュ大統領はこの写真を「イラクは環境破壊国家だ」という情報操作に利用した。
ストーブ・パイプス
ストーブ・パイプ(煙突)とは、官僚組織が縦割りのため、収集した情報や作成したインテリジェンスが他の組織で共有されない状況を指す。
ストーブ・パイプスは政府機関のみならず、一般社会でも起こる。医療を例にすれば、技術の進歩によりガンの早期発見は可能となったが、その一方で兆候の見落としも少なくない。これは、大病院において肝臓、消化器、肺など専門医に細分化されていることに要因があるようだ。
医療技術の進歩により何百枚というCT画像が瞬時に撮影され、いわば“情報の渦”が起こる。そこから重要情報を選り分けるため、専門医は担当以外の病因に関わってはいられない。それが重要な兆候を見落とす原因になるのだ。