2021年12月号掲載
ブレインテックの衝撃 脳×テクノロジーの最前線
- 著者
- 出版社
- 発行日2021年10月10日
- 定価946円
- ページ数216ページ
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著者紹介
概要
念じるだけでスマホを操作する。脳に機械をつなぎ思考を読み取る…。まるでSFのようなこの技術、近い将来に現実のものになるかもしれない。フェイスブック等のIT企業が続々と脳に関わる技術開発に乗り出しているのだ。彼らの狙いは何か。懸念されるリスクは? 急ピッチで進められる「ブレインテック」開発の最前線に迫る。
要約
脳と機械を融合させる
人間の脳を科学的に測定することにより、その人が今、何を感じ、何を考えているのかを読み取ることはできるか?
今のところ、明確な答えはない。だが、それを可能にする技術の開発が今、急ピッチで進められている。それは「BMI(ブレイン・マシン・インタフェース)と呼ばれるテクノロジーだ。各種マシン(機械)を人の脳と接続し、双方の間で直接情報をやり取りする技術である。
基礎研究から商用化の段階に
世界的に著名な起業家や巨大IT企業などが最近、この分野に参入し、注目を浴びている。その筆頭が、電気自動車メーカー・テスラのCEOイーロン・マスクが創立したニューラリンク社だ。
同社は人間の脳に電極や半導体チップを埋め込んで、コンピュータやロボット義肢などを自在に操作する技術の実現を目指している。これはBMIの中でも「人体(脳)に外科手術を施す」という意味から「侵襲型の技術」と呼ばれる。
BMIの技術は、1960年代から主に医療への応用を想定して基礎研究が進められてきた。例えば「事故で身体機能の麻痺した患者が、脳の思念でロボット・アームを操作して日常の用を足す」といった目的である。だが、ここにきてICチップなど半導体技術の急速な発達を受け、IT産業が新たなビジネスチャンスとして取り組み始めた。
ニューラリンクのBMI技術
2019年、ニューラリンクは記者会見を開き、これまでの研究成果としてマウスを使った動物実験についての論文を発表すると同時に、この実験に使われたBMIシステムを公開した。
実験では、マウスはドリルで頭蓋骨を切開され、大脳皮質にスパイクと呼ばれる電気信号の読み取り装置が埋め込まれた。装置は多数の糸状電極と、それらが脳内で受信した電気信号を処理する半導体チップから成り、一度に約1000個ものニューロン(神経細胞)の活動電位を測定できるという。ただし、脳内の電気信号を外部のコンピュータに送信するための連結部分は、マウスの頭部から外に突き出た格好になっていた。
その1年後、同社は豚を使ったBMIの動物実験を公開した。マウスとは異なり、読み取り装置の全体が頭蓋骨の内側にすっぽり納まっており、外見上、普通の豚と何ら変わりない。
この豚が、ルームランナーで運動しながら餌を食べる様子が公開された。その際に脳内のニューロンが発する電気信号を読み取り装置で受信・増幅し、コンピュータで処理することによって、歩行中の豚の各部関節の位置をほぼ正確に推定している。つまり、ニューラリンクの技術は、脳内の電気信号を単に拾い上げるだけでなく、ある程度まで解析できる段階に達していたのだ。
同社は、いずれはこの技術の完成度を高めて人間に適用し、脊髄損傷などで身体(四肢)の自由を失った人たちがロボット・アームなどの補助装置を動かせるようにするという。
ビデオゲームで遊ぶ猿
2021年、ニューラリンクはBMI技術の動物実験をビデオ撮影してネット上に公開した。そこには「ペイジャー」と名付けられた猿が、脳の思念でビデオゲーム「ポン」を遊ぶ様子が映し出されていた。ペイジャーは念じるだけで、的確に画面上の2本のラケットを操り、画面を上下左右に行き交うピンポン玉に見事にヒットさせている。