2022年6月号掲載
独裁者のためのハンドブック
Original Title :The Dictator's Handbook
著者紹介
概要
カエサル、ヒトラー、金正日(キムジョンイル)、あるいは企業経営者。古今東西、様々な独裁者がいる。彼らは、なぜ支配者でいられたのか。この疑問を解くカギは、「支配者が支配されるルール」にある。それはすなわち、「政治的に生き残る」こと。この視点に立てば、独裁者の行動の“本当の理由”が見えてくるという。
要約
支配者を支配するルール
私たちは、日々トップ・ニュースにショックを受け、驚かされる。そんなニュースに登場するのは、不正を犯す企業経営者や、残虐行為のあげくに人まで殺す為政者の姿である。
ジャーナリストや学者は、まことしやかな言葉で、なぜ、あのリーダーが権力の座についたのか解説する。しかし、個々の解説のウラにある、核心をつく疑問が残る。どうやって暴君は長く権力を握り続けるのか? 逆に、なぜ、よくできた民主的リーダーは短命に終わるのか?
ダメな経営者が高い給料をもらい続ける理由
同じような疑問は、まだまだある。
なぜ、銀行の重役たちは世界経済が落ち込んでいる時に巨額のボーナスを受け取るのか? なぜ、ダメな経営者が高い給料をもらい続けるのか?
このような、責任は果たさずに甘い汁だけは吸い続けるという“政治的な態度”に対する疑問は、次から次へと湧き上がってくる。
こうした例を見るにつけ、私たちは、彼らは自分たちとは違う人種の人間だと結論づける。しかし彼らは、“政治の論理”、すなわち支配者を支配するルールに従っているにすぎない。
注目すべきはリーダーの利害と行動
政治に関していえば、モンテスキュー、ホッブズ、マキャヴェリらが、賢明で洞察に富んだ思索を残している。
しかし彼らは、政治を間違って捉えてしまった。彼らは、本当に「正しい」政府とは何か、政治において「正義」とは本当は何を意味するのか、といったことに囚われていた。
世界はいかにあるべきかといった壮大な論題は、重要である。しかし、まずは世界がなぜ、どのように動いているのかを知ることなしに、世界を良くすることができるとは思えない。それを知るヒントとなるのは、とても基本的な疑問だ。
―― もしも戦争に負けたら、リーダーとその国の行く末はどうなるのだろう?
奇妙なことに、数多の国際問題の研究の中で、この疑問はあまり触れられてこなかった。それは、戦争と平和についての標準的な考え方が、国家という概念にこだわるあまり、リーダーの利害に目を向けてこなかったからである。