2022年9月号掲載

ゼロからわかる量子コンピュータ

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著者紹介

概要

日本が誇るスーパーコンピュータ「富岳」。それをはるかに凌ぐのが「量子コンピュータ」だ。富岳でも数万~数億年かかる計算を、わずか数分でやり遂げるという。そんな「夢の超高速計算機」について平易に解説。基本的な原理から、自動車、金融など各産業に与える影響、社会・政治的インパクトに至るまで、多面的に伝える。

要約

量子コンピュータとは何か

 「量子コンピュータ」 ―― 。

 この次世代コンピュータは、日本の「富岳」のような世界最速級のスーパーコンピュータ(スパコン)でも数万~数億年もかかるような計算を、わずか数分でやり遂げるという。

 既存のコンピュータをはるかに凌ぐとされる量子コンピュータは、従来には想像もつかなかったような繁栄を世界にもたらす可能性がある。

「量子力学」を基本原理とする超高速計算機

 そもそも量子コンピュータとは、20世紀初頭、欧州を中心に最先端の物理学として確立され、原子や電子などミクロ世界を説明する「量子力学」を計算の基本原理とする「夢の超高速計算機」だ。

 「量子」とは、私たちの身の周りにある色々な物を何度も何度も限りなく分割していった末に、原子サイズ(直径、約1000万分の1mm)以下にまで小さくなった物質やエネルギー等の極小単位のことである。

 具体的には「原子」、その構成要素である「陽子」「中性子」「電子」「クォーク」、光を構成する素粒子である「光子(光量子)」などが量子の代表だ。そして、これら小さすぎて目には見えない様々な量子の振る舞いを、高度な数式を駆使して解明する物理学が「量子力学」である。

「量子重ね合わせ」とは?

 実は量子コンピュータの素材として使われる電子や光子など量子には、いくつかの奇妙な特徴がある。その最たるものが、「量子重ね合わせ」と呼ばれる現象だ。

 比喩的な表現となるが、私たちの生きるマクロな日常世界では、白はあくまで白であり、決して黒ではない。しかし電子や光子などが活躍するミクロの世界では、「白は白であると同時に、黒でもある」という奇妙な状況が成立する。要するに、1つのモノが同時に異なる状態(ポジション)を取り得る。これが「量子重ね合わせ」だ。

 従来の計算機は、いわゆる「ビット」が何個も連なったデータを処理対象とする。各ビットは2進数、つまりある時点で「0」か「1」のどちらかの値をとる。しかし、量子力学によって説明される極小の世界では、前述の「量子重ね合わせ」現象により、同時に「0でもあり1でもある」という奇妙な状況が成立する。電子や光子などの量子をベースに、それを実現したものが「量子ビット」である。

 1個の量子ビットは同時に「0」と「1」という2つの状態を取り得る。ここから量子ビットの数が1個増えるに従って、それらが同時に取り得る状態の数は倍化する。

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