2023年2月号掲載
新しい階級闘争 大都市エリートから民主主義を守る
Original Title :THE NEW CLASS WAR:Saving Democracy from the Metropolitan Elite (2020年刊)
著者紹介
概要
欧米諸国で対立が深まっている。それは、かつてのイデオロギー上の「左右」ではなく、階級の「上下」の対立だ。高学歴のエリート層による新自由主義的な支配体制に、労働者階級の不満が爆発、ポピュリズムの反乱が起きた。どうすれば階級の壁を超え、連帯できるのか? 分断を解消するカギは、「民主的多元主義」だという。
要約
階級の二極化が進む
冷戦の後にやってきたのは、新たな階級闘争であった ―― 。
今日、欧米の民主主義諸国では、階級の二極化が進んでいる。一方に、大都市で働く高学歴の管理者(経営者)や専門技術者からなる「上流階級」が存在し、もう一方には、昔からその国で働いてきた人々と新しくやってきた移民とに分裂した大多数の「労働者階級」が存在する。
かつて労働者階級の利益を代弁していた旧来の機関(労働組合、宗教団体、地域政党など)は、弱体化するか、壊滅した。そのため、政治・経済・文化という3つの領域において、管理者(経営者)エリートと、彼らが支配する非民主的機関(官僚、司法、企業、メディア、大学、非営利組織など)への権力の集中が進んだ。
新たな対立構造
左派対右派という古い対立図式は、インサイダー対アウトサイダーという新しい政治の二分法に取って代わられた。上流階級が体制のインサイダーとなり、労働者階級はアウトサイダーとなった。
米国におけるクリントン、オバマ、バイデンの民主党とブッシュの共和党、イギリスにおけるキャメロンの保守党とブレアの労働党、彼らはインサイダーである。左派のバーニー・サンダースや右派のドナルド・トランプはアウトサイダーだ。
同時に政治カルチャーは、大都市エリートのお高くとまった「テクノクラート新自由主義」と、露骨で下品で反政治的なカウンターカルチャーを特徴とする「煽動的ポピュリズム」とに分裂した。
政治的・経済的・文化的権力が少数の管理者(経営者)に牛耳られているため、エスタブリッシュメントに抗議の声を上げるトランプのような候補者が政権を握るケースも時にはあるが、ポピュリズムの反乱はたいてい失敗に終わる。
ポピュリストのドミノ倒し
ポピュリズムが各国において大きな問題となったのは、2016年あたりからである。
2016年6月、イギリスのヨーロッパ連合(EU)からの離脱「ブレグジット」の賛否を問う国民投票が行われ、有権者の過半数が離脱を支持した。この政治的な激震から数カ月後の2016年11月、さらに衝撃的な出来事が起こった。ドナルド・トランプが合衆国大統領に選出されたのだ。
以来、ヨーロッパ全土で、アウトサイダーの政党や政治家が出てきた。彼らは左派の場合もあるが、多くは右派のポピュリストやナショナリストである。例えば2018年の夏、イタリアでは右派ポピュリスト政党の「同盟」と反エスタブリッシュメント政党の「五つ星運動」が連立政権を組んだ。
スウェーデン、ドイツ、スペインなど、ナショナリズムやポピュリズムとは無縁と思われていた国でも、ポピュリスト政党が議席を獲得した。