2023年2月号掲載
アンラーン戦略 ――「過去の成功」を手放すことでありえないほどの力を引き出す
Original Title :UNLEARN (2019年刊)
著者紹介
概要
「アンラーン」とは、これまでの成功体験や習慣を手放し、新しい行動に改めるプロセスのこと。「脱学習 → 再学習 → ブレークスルー」。これら3つから成る〈アンラーンのサイクル〉を持続的に回せば、停滞することなく進化し続けるという。本書は、この成長戦略の威力、構造、方法論など、全体像を豊富な事例とともに示す。
要約
アンラーンの驚くべきパワー
テニス界のスーパースター、セリーナ・ウィリアムズは、2010年のシーズンのはじめ、女子テニス界の世界ランキング1位だった。
だが、その後、ケガのため戦線離脱。この年の世界ランキングは4位で終わった。
翌2011年後半に戦線に戻ったが、この年の世界ランキングは12位で終わる。2012年には、全豪オープンで世界ランク56位の選手に敗れ、全仏オープンでは世界ランク111位の選手に敗れた。
彼女の脳裏では疑念が渦巻く。これまでやってきたことはすべて実践し、長くハードなトレーニングをこなした。それなのに、これまで成功をもたらしてくれた何もかもが役に立たず、勝てない。
よみがえったセリーナ
全仏オープンでの衝撃的敗戦の直後、セリーナは練習するためのコートをパリで探した。そしてパトリック・ムラトグルーがコーチを務める、ジュニアのためのテニス・アカデミーを見つけた。
アカデミーに来たセリーナの練習を観察したムラトグルーは、彼女に率直な意見を述べた。
「打つたびにバランスを崩している。だからミスが多い。それから、全体重がショットに乗り切っていないからパワーが失われてしまう」
彼の観察力に興味を持ったセリーナは言った。「それなら、その問題に一緒に取り組みましょう」。彼女が初めてテニスラケットを握った時から指導してきた父に代わって、確固たる実績があるわけでもないこの人物をコーチにしたのだ。
ムラトグルーをコーチに選んだことで、セリーナはそれまで経験したことのない不確実な状況に向き合うことになった。それでも、「今はこれまでやってきたことを手放し、離れるべき時だ」ということがセリーナにはわかっていた。
その後の顛末は、「桁外れ」としか言いようがない。セリーナは19試合で優勝し、ウィンブルドンと全米オープンでも優勝を果たし、2012年のオリンピックでは金メダルを獲得した。
セリーナは、猛烈な勢いで帰ってきたのだった。