2023年4月号掲載
そのビジネス、経済学でスケールできます。
Original Title :THE VOLTAGE EFFECT:How to Make Good Ideas Great and Great Ideas Scale (2022年刊 )
著者紹介
概要
人気レストランがチェーン展開に失敗、スタートアップが事業拡大中に資金難で破産…。ビジネスの現場では、事業やアイデアの「スケールアップ」(規模拡大)に失敗するケースが少なくない。なぜか? 事業のスケールアップに欠かせない5つの条件、最大の効果をもたらす方法を、行動経済学の大家が説く。
要約
アイデア実現のためのチェックリスト
あなたが起業家と接点を持っていれば、「スケール」がビジネス界のバズワードになっていることをご存じだろう。ビジネスの世界でのスケールは一般に、1つの会社を成長させるプロセスを指す。
だが、スケーリングの意味はそれだけではない。広義の「スケール化」は、アイデアを適用する範囲を拡大し、望ましい成果をあげることを指す。
規模を拡大してうまくいく可能性のあるアイデアと、そうでないアイデアを峻別する特別な決め手はない。だが、スケーラブルなアイデアに備わっている特徴が5つある。私はこの特徴を「5つのバイタルサイン」と呼ぶ。そう呼ぶ理由は、スケールアップを図る前に、アイデアが生きているかどうかを見極める必要があるからだ。
次の5つのうち、どれか1つでも欠ければ、アイデアをスケールアップすることはできない。
①偽陽性や詐欺ではないか
アイデアや事業のスケールアップを願う人が避けねばならない第1の落とし穴は「偽陽性」だ。
偽陽性とは、「嘘」あるいは「偽のアラーム」のこと。簡単に言えば、エビデンスまたはデータのごく一部を、何かが正しいことの証拠だと誤って解釈する時に偽陽性が発生する。
好例が、米自動車メーカーのクライスラーだ。2006年、同社は欠勤問題を抱えていた。調査の結果から、従業員の健康増進プログラムが問題の解決につながると見られた。そこで、健康増進プログラムを導入するにあたって実験を行った。
同社には31の工場があるが、まずは1つの工場で、従業員に健康増進活動に参加してもらった。その結果、参加者は参加しなかった者に比べ、医療費も、欠勤も少なかった。CEOは結果に満足し、プログラムを残りの工場にも広げようとした。
だが、別のグループで同じプログラムを試すと、参加した従業員は参加しなかった従業員より良い結果を出したわけではなかった。初回の結果は統計上のまぐれ ―― 偽陽性だったのだ。
サンプル調査を実施する際は、あくまで1つのサンプルにすぎないと認識しておかねばならない。サンプルから得られた結果は、全対象者にあてはまらない場合もあるからだ。
②対象者を過大評価していないか
一般に、文化や地理、社会経済集団の垣根を越えてアイデアや事業を広めようとする場合、注意が必要だ。人は、それぞれの土地や文化に特有の行動をとるからだ。