2023年5月号掲載
AIが職場にやってきた 機械まかせにならないための9つのルール
Original Title :FUTUREPROOF:9 Rules for Humans in the Age of Automation
著者紹介
概要
AIは、人間の未来をより良いものにしてくれるのか? 多くの「楽観論者」の主張を検討した著者は、全面的な楽観はできないと言う。そう考える原因は、テクノロジー自体にあるのではない。AIを都合よく利用する“人間”の側にある。自動化が進む世界で人はいかにあるべきか。『ニューヨーク・タイムズ』紙の記者が問い直す。
要約
AIは恩寵か、脅威か?
私は幼い頃からテクノロジーを愛している。「コンピューターが人の仕事を奪う」などと言う人がいれば軽蔑していた。何年か前に『ニューヨーク・タイムズ』でテクノロジーに関するコラムを書き始めた頃、AIについて耳にすることといえば、ほとんどが私と同じ楽観的なものだった。
ところがここ数年、AIについて書いてきた私は、それまでの楽観論を考え直すに至った。
私は多くのAI楽観論者に話を聞いた。AI関連のテクノロジーが、悪影響よりもはるかに多くの望ましい影響をもたらすと信じている人たちだ。
彼らの主張をまとめると、次の4点になる。
①以前にも同じことがあり、最終的にはよい結果に至った
楽観論者は、テクノロジーに奪われる仕事はあるものの、新たな仕事が必ず生まれると主張する。確かに産業革命で一部の農民は仕事を失ったが、工場で数百万、数千万という仕事が生まれ、様々な消費財が新たに登場した。これは人類の歴史を通じて繰り返されてきたパターンだ、と主張する。
②AIは退屈な作業を人間の代わりにやってくれるので、人間の仕事はもっとよいものになる
楽観論者は、AIは反復的でつまらない作業から人を解放し、もっとやりがいのある仕事を提供する、と言う。
③人間とAIは競うのではなく協力する
楽観論者は、AIの多くは人の「代わり」を務めるのではなく、人と「共に」働くように設計されているので、人間とAIの関係は協力の機会をもたらすと主張する。
④未来には、今の私たちには想像もできないような新しい仕事が生まれるだろう
今ある世界最大手企業の多くは、ほんの数十年前には存在していなかった。FacebookもGoogleもAmazonもそうだ。この先、AIの改良が進めば、人間の発想力を生かす場はさらに増えていく。テクノロジーが発展するたびに、人は新たな面白い仕事を生み出してきた、と楽観論者は言う。
楽観論者の意見は正しいか?
これらの主張について調べた結果、私は全面的な楽観でも全面的な悲観でもない立場に至った。私の立場は「サブオプティミズム」(楽観未満)と呼ぶべきものだ。これは、AIや自動化に対する最大の恐れは現実とならないかもしれないが、現実の脅威は存在するという見方を表す。
テクノロジー自体については、さほど心配していない。適切に設計されたAIや自動化が多くの人の暮らしを劇的に改善できると、私は今も信じている。自動運転の乗用車やトラックだけでも、年間に何十万人もの命を事故から守れるはずだ。