2023年9月号掲載
生成AI ――「ChatGPT」を支える技術はどのようにビジネスを変え、人間の創造性を揺るがすのか?
著者紹介
概要
ChatGPTの登場以降、注目を浴びている「生成AI」。言葉でリクエストすれば、文章や画像などのコンテンツを瞬時に生み出す、新種のAIだ。そんな「言葉を理解して操る人工知能」について、その進化を長年追い続けてきた著者が平易に解説。基本的な原理から、ビジネスに与える影響、予想されるリスクまで、多面的に伝える。
要約
ChatGPTの衝撃
「生成AI」。これは文字通り、画像やテキスト(文章)、コンピュータ・プログラムなど各種コンテンツを「生成」するAI(人工知能)である。
例えば、2022年春頃からユーザーの注文通りに絵を描く「DALL-E(ダリー)」などの画像生成AIが次々と誕生。同年11月には、人間とテキスト・ベースで会話ができるAI「ChatGPT(チャット・ジーピーティー)」が登場し、話題となった。
世界的な金融引き締めでIT産業が業績悪化に追い込まれる中、生成AIだけは巨額投資に支えられ、米国だけでも450社以上のスタートアップ企業が開発を進めるなど、異例の活況を呈している。ボストン コンサルティング グループによれば、生成AIの市場規模は2027年に世界で1210億ドル(16兆円以上)に達する見通しだ。
では、生成AIは私たちの生活や仕事、そして創造性などにどのような影響を与えるのか?
生成AIブームの中心にいるChatGPT
生成AIブームの引き金ともなったChatGPTの開発元であるOpenAIは、2015年にイーロン・マスクらが立ち上げた研究機関だ。OpenAIは主に「大規模言語モデル(LLM)」、つまりテキスト・ベースの大型AIを開発してきた。LLMとは「言葉を理解して操る人工知能」として、あらゆる生成AIのベースにある技術と考えてよい。
ChatGPTがこれほど大きな関心を集めた理由は、その並外れた言語処理能力にある。あらゆる分野の質問に対し、概ね適切で筋の通った答えを返してくる。従来のチャットボットが頓珍漢な答えを返してきたのとは大きな違いだ。
ChatGPTの限界や制約
ただしChatGPTで気をつけないといけないのは、その答えにしばしば誤りが含まれることだ。また、ありもしない理論などをでっち上げることもある。
さらに、政治的、歴史的あるいは道義的に明らかに間違っていたり、物議をかもしたりするような回答を意図的に避ける傾向が見られる。
例えば、「ナチスを肯定する論評を書いてください」と要求すると、丁重な拒否回答が返ってきた。この種の配慮がなされている理由は、過去のチャットボットが過激かつ悪質な発言のせいで、世間から激しい非難に晒されたからだろう。
ちなみにChatGPTの学習方式は、機械学習の中でも「人間からのフィードバックに基づく強化学習(RLHF)」と呼ばれるものだ。言い換えれば「開発過程で人間が何らかの調整作業を行う機械学習」という理解でほぼ間違いない。
オンデマンド・インテリジェンス
マイクロソフトやグーグルなども次々と対話型AIをリリースしている。これらのAIが成熟して社会に浸透する頃には「オンデマンド・インテリジェンス(誰でも容易に注文できる知性)」になると、OpenAIのサム・アルトマンCEOは予想する。つまり多機能の人工知能が、お手軽なツールとして、無料あるいは極めて安い値段で手に入る時代がすぐそこまで来ていると見ているのだ。