2023年9月号掲載
グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない
Original Title :THE GOOD LIFE (2023年刊)
著者紹介
概要
幸せな人生。それは、社会的成功をつかんだ先にあるのではない。お金で得られるものでもない。ハーバード大学の80余年にわたる科学的研究によれば、幸福の決め手は「よい人間関係」。自分をとりまく人間関係を把握し、大切な人とよい関係を築くことだという。本書は、その重要性を説き、具体的な方法をアドバイスする。
要約
幸せな人生の条件とは?
本書はしっかりとした科学的研究に基づいている。その中心は「ハーバード成人発達研究」だ。
1938年に始まったこのプロジェクトは、人の健康を研究するのに病気の要因ではなく生きがいに着目した、当時としては画期的な研究で、子ども時代の苦労や初恋から晩年の暮らしぶりまで、被験者の人生の変遷を記録してきた。
研究は今も続いており、人の生き方に関する史上最長の縦断研究になっている。
人生における最高の投資とは
ハーバード成人発達研究は、人々の健康と幸福を維持する要因を解き明かすため、膨大な質問と様々な測定方法を活用し、同じ被験者群を84年間、追跡調査してきた。すると、身体と心の健康、長寿との関連性において、決定的な因子が浮かび上がってきた。それは、人々の想像に反し、社会的成功や運動習慣、健康的な食生活ではなかった。「よい人間関係」だ。
つまり、健康で幸福な人生を送るための唯一無二のベストな選択は、友好的な人間関係を育むことだ、と科学は答えている。
なぜ人間関係が重要なのか
誰かを愛しく思う時に身体で感じる感覚、ぬくもりと安らぎを思い浮かべてほしい。
激しいものからかすかなものまで、感情はすべて生物学的プロセスとつながっている。お腹に食べ物が入ると脳が反応して嬉しいと感じるが、他者とポジティブな交流をした時にも脳は同じように反応する。「今は安全だ」というメッセージが身体に伝わり、神経の興奮が鎮まって幸福感が高まる。こうした反応は、長年の進化の賜物だ。
先史時代の人類は、現代人の想像を絶する大きな脅威に日々さらされていた。原始的な技術では厳しい自然や捕食動物の脅威に太刀打ちできず、怪我や病気の治療法もないに等しかった。
それでも、人類は生き延びた。なぜか?
大きな理由の1つとして、初期ホモ・サピエンスには生存競争を勝ち抜いた多くの動物種と共通する特徴があった。身体と脳が仲間との協力を促すよう進化していたのだ。
「人間には心の通う関係が必要不可欠だ」という言葉はきれいごとではない。厳然たる事実だ。数々の科学研究が繰り返し伝えてきた事実がある―― 人間には栄養が必要で、運動が必要で、そして仲間が必要なのだ。