2024年2月号掲載
THE POWER OF REGRET 振り返るからこそ、前に進める
Original Title :THE POWER OF REGRET (2022年刊)
著者紹介
概要
「あの時、別の道を選んでいれば」…。悩んでも過去は変えられないのに、私たちは後悔する。そして、悔やまないことが正しい生き方だと思う。しかし、世界屈指の経営思想家である著者によれば、後悔は健全な感情で、希望をもたらすもの。本書は、人間だけにある、この感情がもつ力を説き、うまく付き合う方法を紹介する。
要約
後悔は人間を人間たらしめるもの
後悔は時間の無駄であり、精神的幸福を妨げる―― このような発想は、世界のあらゆる文化圏で声高に唱えられている。
しかし、この考え方は決定的に間違っている。後悔することは、きわめて健全で、誰もが経験し、人間にとって欠かせない感情である。
「タイムトラベル」と「ストーリーテリング」
私たちが「後悔」と呼んでいる感情、その正体は何なのか。これまで科学者や神学者など、様々な分野の専門家たちがその定義を試みてきたが、後悔を正確に定義することは難しい。
なぜなら、後悔は1つの状態というより、プロセスと考えるべきものだからだ。
人が後悔を感じるプロセスは、人間が持つ2つの能力とともに始まる。「脳内で過去と未来を訪ねる能力」と「実際に起きていないことをストーリーとして語る能力」である。人間はタイムトラベラーであり、ストーリーテラーでもあるのだ。
例えば、次のような後悔を打ち明けた人がいる。
―― 大学院の学位を取得すればよかったと思っています。当時の私は父親の願望を受け入れて、大学院を中退してしまったのです。学位を取得していれば、私の人生は違うものになっていたでしょう。もっと満足感を味わえたはずです。
この女性は自分の現状に満足できず、脳内で過去に立ち戻ったのだ。そして、実際に起きたこと(父親の望みに従ったこと)をなかったことにし、それとは別のシナリオを思い描いた。
そのシナリオでは、父親の望みではなく自分の望みを尊重した。その後、再び現在へ戻る。ただし、過去をつくり変えたので、今回経験する現在はまるで違うものになっている。この新しい世界では、満足感と充実感と達成感を味わえるのだ。
こうしたタイムトラベルとストーリーテリングの能力は、人間だけがもっている能力だ。
「比較する」ステップと「分析する」ステップ
後悔のプロセスが完了するまでには、さらに2つのステップを経なくてはならない。