2024年6月号掲載
チャイナ・イノベーションは死なない
著者紹介
概要
近年、激しさを増す米中ハイテク戦争。米国が打ち出した半導体などの禁輸措置に対抗するため、中国は国産技術の開発に注力している。そんな中国企業の現況を、中国テクノロジー研究の第一人者が明らかにする。ファーウェイ、バイトダンスをはじめ中国ハイテク企業の生き残り戦略を、現地取材を交え詳細に描いたリポートだ。
要約
米国の制裁を乗り越えたファーウェイ
2018年12月、中国大手通信機器メーカーの華為技術(ファーウェイ)の創業者・任正非の娘であり、同社副会長の孟晩舟が、米国の要請を受けたカナダ当局によって逮捕された。
孟の拘束に中国外務省は強く反発して、カナダ、中国、米国の3カ国間の外交問題に発展した。
この事件の背景には、第5世代移動通信システム(5G)分野でのファーウェイの圧倒的な強さを目にして、デジタル技術における自国の優位を脅かされることを恐れた米国の危機感がある。
米国は2019年に禁輸措置を発動。2020年5月には、同社と関連企業114社への輸出管理を強化すると発表した。世界最大手の半導体受託製造、台湾積体電路製造(TSMC)は、この規制を受けてファーウェイ向けの供給を停止した。その結果、ファーウェイは高性能スマートフォンの製造が困難となり、世界シェアのトップを争っていた携帯電話事業が世界シェア5%未満に落ち込んだ。
そんな中、同社は2023年に最新鋭機種のスマートフォン「Mate60Pro」を発売。その人気によって端末事業は急速に回復した。また、ICTインフラ事業やスマートカー事業の競争力も大幅に向上している。2023年の売上高は7000億元を超える見通しだ。米国による制裁に耐えて、同社の経営は正常な状態に戻っている。
新興EVメーカーと開発した「新型問界M7」がヒット
米国から禁輸措置を発動された2019年、ファーウェイは自動車関連の事業部を立ち上げた。そして重慶の中堅商用車メーカー傘下の新興EV(電気自動車)メーカー、セレス・グループと共同開発を行い、2021年、SUVタイプのスマートEV「セレスSF5」の発売にこぎつけた。
当初は販売が低迷し、決して順風満帆ではなかった。しかし、セレス社とともに2021年に新ブランド「問界(AITO)」を立ち上げ、新車を次々と発表。2023年には、スマート運転システムなどを搭載する「新型問界M7」を開発。発売当初からその機能の先進性が人気を呼び、発売1カ月半で6万台を超える受注を獲得した。
アンドロイド、iOSに次ぐ第三極を目指す
問界には、ファーウェイが独自に開発したIoT向けの基本ソフト(OS)「鴻蒙」(ハーモニー)が搭載されている。ハーモニーはIoT技術を活用して、様々な製品と繋げることができる。
例えば、カーナビにスマートフォンをタッチするだけで、スマートフォンの地図アプリで調べた経路をカーナビに連携できる。また、カーナビの大画面でリモート会議も実施できる。
今後、自動車はもはや単なる人の移動手段だけではなく、利用者を中心とした移動空間、つまりスマートライフへの入り口になり得る。そうなると、ファーウェイのパソコン、スマート家電、スマートカーなどのデバイス間でデータ共有が簡単にでき、アップルやグーグル同様、世界で第三のエコシステムを形成する可能性が生まれてくる。
2024年1月時点で、ハーモニーを搭載する設備はすでに8億台を超える。航空宇宙、運輸、金融、医療などの業界をカバーし、200社以上の中国企業がハーモニーをベースとしたアプリの開発に着手、2024年内には5000社に達する見込みだ。