2024年12月号掲載
破壊なき市場創造の時代 ――これからのイノベーションを実現する
Original Title :BEYOND DISRUPTION (2023年刊)
著者紹介
概要
近年、ビジネスで“ディスラプション”がもてはやされている。ネットフリックス、アマゾン、ウーバーなどは、それで躍進した。だが、企業の破綻や雇用の喪失などマイナス面も大きい。破壊を伴わない手法はないのか? 「ブルー・オーシャン戦略」で知られる世界的経営思想家2人が、敗者を生まない新たな市場創造の道を示す。
要約
非ディスラプティブな創造とは何か
この20年、「ディスラプション」(新製品や新サービスが旧来の製品やサービスに取って代わる現象)は、ビジネスの鬨の声となっている。
企業リーダーたちは、生き残り、成功するための唯一の方法は、業界、あるいは自社をさえディスラプトすることだと、警告を受け続けてきた。
とはいえ、ディスラプションだけがイノベーションと成長への道なのか。答えは「ノー」だ。
ディスラプションなきイノベーションと成長
ディスラプションは、たしかに重要性を持ち、周囲に溢れている。しかし、ディスラプションを重視するあまり、イノベーションと成長へのもう1つの道はおおむね見過ごされてきた。
その道とは、ディスラプションや代替を伴わない新市場の創造であり、筆者らはこれを「非ディスラプティブな創造」と見なす。
非ディスラプティブな創造とは、企業の破綻、雇用の喪失、市場の荒廃を引き起こさずに、新たな産業を創出することを意味する。これは、何もなかったところに新たな市場をイノベーションする、計り知れない可能性を秘めている。
マイクロファイナンスを考えてみよう。約40年前には存在もしなかったこの産業は、1日数ドル未満で生活する人々が金融サービスから排除されてきた長い歴史に、終止符を打った。この業界を創造したのは、バングラデシュのチッタゴン大学で経済学部長を務めていたムハマド・ユヌスだ。
極貧層はあまりに収入が少ないせいでまったく貯蓄ができず、経済基盤の拡大に向けた投資にも乗り出せない。多くの場合、少しでもお金があればよりよい生活への希望が持てた。しかし、既存の銀行は、「貧困者は借り手としてふさわしくない」と見なして無視するだけだった。
これを変えたのがマイクロファイナンスだ。1983年にユヌスは、世界初のマイクロクレジット銀行であるグラミン銀行を設立し、貧困者に少額の融資を行った。マイクロクレジットは、長い間、見過ごされ対処されずにいた問題を解決することで、従来は資本提供を受けられずにいた人々に新しいマイクロビジネス、新規雇用、より高い生活水準、そして希望を生み出す道を開いた。
こうした非ディスラプティブな動きを受けて、マイクロファイナンスという新しい市場が他の産業に取って代わることなく誕生した。以後、マイクロファイナンスは数十億ドル規模の産業へと成長し、98%という驚異的な融資返済率を達成する他、将来の成長余地も大きい。
市場創造型イノベーションの両極
ディスラプティブな創造と非ディスラプティブな創造は、新市場創造と成長に向けたイノベーションの両極をなすものだ。