2024年9月号掲載
経営理念が現場の心に火をつける
- 著者
- 出版社
- 発行日2024年7月17日
- 定価2,200円
- ページ数277ページ
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著者紹介
概要
「いい経営」を「すばらしい経営」に進化させるカギは“経営理念”にある ―― 。一橋大学名誉教授の伊丹敬之氏が、経営理念を育み、社内に浸透させることの大切さを、グーグル等の事例を挙げて明快に解説。氏は言う。経営理念を組織内で共有し、人心が統一されると、現場は驚くような行動を自発的に取るようになる、と。
要約
すばらしい経営への進化のカギ
世の中の経営には、そこそこの経営もあれば、いい経営もある。さらに、いい経営の先に、すばらしい経営がある。そして、いい経営をすばらしい経営に進化させるカギが「経営理念」である。
経営理念において大切なのは、それが深く信じられていることと、組織内で共有されていることだ。そうした理念で人心が統一されると、現場が驚くような行動を自発的にとってくれる。
グーグル ―― 基本ソフトを現場が勝手につくる
1つ実例を紹介しよう。ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが設立したグーグルでの出来事だ。
創業から4年が経ったある金曜日の午後、ペイジが本社にあるカフェテリアの掲示板に張り紙をした。それはグーグルの検索結果画面を印刷したもので、当時の広告エンジンが表示した広告がいくつか出ていた。その広告がいずれも検索語と関連がないと感じたペイジは、「この広告表示はムカつく」となぐり書きをして張り出したのだ。そして何か指示を出すわけでもなく、家に帰った。
この掲示板を、たまたま広告エンジンチームとは無関係のエンジニアが見た。彼は、「世界の情報を瞬時に誰にでも提供する」という使命を掲げる会社として、この広告表示はよくないと感じた。そこで他の4人のエンジニアに声をかけて、新しいエンジン候補のソフトの骨格をつくり始めた。
そして週末の短い時間に、5人の間で情報交換と議論という「仲間の間の相互刺激プロセス」が行われた結果、新しいソフトの原型ができあがった。それが、グーグルの収入の大きな部分をあげる「アドワーズ」の基本型の誕生の瞬間だった。
この5人は広告エンジンへの責任を持つ立場にあったわけではなく、指示を受けたのでもない。ただ、「ムカつく」という創業者の言葉に刺激されて、勝手に動き始めたのである。そうした現場の自由な行動を奨励する雰囲気が、グーグルにはあった。現場の自律性を強調する、というのがペイジの経営哲学だったのである。
事の本質は、みんなが「勝手に」動き出す、ということである。それでいて、彼らの行動は会社が目指す方向性と見事に合っている。そうなった要因の1つは、会社の理念が明確に現場に伝わっていたことにある。
経営理念=企業理念+組織理念
経営理念の元祖・松下幸之助は、その主著『実践経営哲学』で、企業という存在の使命・目的と、経営のやり方の基本的考え方、その2つが経営理念の内容だ、と述べている。
以下では、企業という存在の使命・目的を「企業理念」、経営のやり方の基本的考え方、つまり組織運営の基本方針を「組織理念」と呼ぶ。