2024年10月号掲載
弱い円の正体 仮面の黒字国・日本
- 著者
- 出版社
- 発行日2024年7月8日
- 定価1,100円
- ページ数342ページ
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著者紹介
概要
円安が止まらない。2024年4月には1ドル160円台と、約34年ぶりの安値を更新。なぜか。弱い円の正体は統計上の数字だけでは見えない。こう指摘するエコノミストが、為替市場の「需給」を分析し、円安の真因に迫った。経常収支の分析から、インバウンド需要の黒字を上回る「新時代の赤字」、「仮面の黒字国」の姿が見えてくる。
要約
「新時代の赤字」の正体
2022年に始まった歴史的な円安相場は一過性ではなく、2024年4月時点でも続いている。
円安が持続した要因は1つではない。
米国のインフレが意外にも粘着的でFRBが利下げに着手できなかったことや、日本銀行が緩和路線の継続を強調したことなど、金融政策に絡んだ議論が円安の理由として取りざたされた。
こうした議論は為替の変動で言えば「金利」要因であり、確かに重要な説明変数ではある。しかし、為替は金利だけで動くものではなく、究極的には「需給」に依存するものだ。国際収支統計を振り返り、為替市場の需給を分析することで、日本が直面している構造変化の実相に迫る ―― 。
2023年の経常収支は黒字
2023年の日本の国際収支統計を見ると、同年の経常収支は+21兆3810億円の黒字だった。これはひとえに「第一次所得収支黒字」が+34兆9240億円と史上最大を更新した結果である。
第一次所得収支黒字は、過去に行った投資の「あがり」の部分だ。国内企業や国内投資家が抱える巨額の外貨建て資産、このあがりが、歴史的な円安もあって膨張したのが2022、23年だった。
片や、2023年は「貿易サービス収支」が▲9兆4167億円と、過去4番目の大赤字を記録した。これを主導したのは貿易収支赤字だが、サービス収支赤字も無視できる規模ではなかった。
このサービス収支赤字の中身を仔細に見ると、現在の日本が直面する課題が浮かび上がる。
「新時代の赤字」としてのサービス収支赤字
サービス収支は、旅行収支・輸送収支・その他サービス収支の3項目から構成される。
2015年頃から日本では旅行収支の黒字が拡大している。訪日外国人観光客(インバウンド)需要の結果、2023年には+3兆6313億円と、過去最大の黒字を更新。現在の日本経済が能動的に稼げる外貨の経路としては最大の項目である。
一方、その他サービス収支は、2023年には▲5兆9040億円と過去最大の赤字を更新している。