歴史上、多くの大国が衰退していったが、どの大国も、自らの衰退について気づかないまま、没落の日を迎えたものはなかった。
それどころか、ほとんどの場合、迫り来る衰退の兆しに数々の「改革」策が繰り返し唱えられ、しばしば喧々囂々の大論争が行われ、しかもその果てに、結局は没落してゆくのであった。
解説
なぜ、多くの大国は、衰退の兆候に気づき、それを回避するための対策を講じたにもかかわらず、没落してしまうのか。
国際政治学者の中西輝政氏は、その要因として、次の3つを指摘する。
1つ目は、それまでの長い成功を支えてきたシステムを変えること、それ自体の難しさである。既得権による抵抗も大きい。
2つ目は、そもそも何を、どう改革するのかという目標設定の難しさや、その実行方法を考える時の誤りやすさがある。後世から見て、的外れな改革であったと思われるものも少なくない。
また、本来、1つか2つの課題に集中すべきだったのに、「○○改革」といった多くのプログラムを付け足したために、エネルギーを分散させてしまう場合も多い。
3つ目に、難題や難問を意味する、「ゴルディアスの結び目」という言葉がある。
複雑に結び合わされた紐があり、誰もそれを解き得なかったが、1つだけ方策があった、というギリシャの伝説から転じたものだ。その方策とは、誰もが「問題外」として考えが及ばなかった、一刀両断にするというやり方である。
衰退を食い止めるには、その時代には「それだけは不可能」と思われていた方法しか、真の対策といえるものはない。しかもその方法は、採用すれば案外簡単に実行できるものである。
だが、こうした方策を採用するのは難しい。また、いざ採用しようと決断したその時には、事態が変化していて、衰退を止める方策としては何の役にも立たなかった ―― 。このような例が、大国の衰退のプロセスには数多く見られる。