AI世界秩序によって、ウィナー・テイク・オール経済と、中国とアメリカの少数の企業に前例のないほどの富の集中が同時に発生する。これこそがAIがもたらす真の危機だと私は思う ―― 広範囲におよぶ失業と広がる格差から生まれる社会不安と政治体制の崩壊である。
解説
近いうちに、私たちはAIが誘発する雇用と不平等の危機にさらされる。
まず、雇用の危機。AIによる作業の自動化は、生産性を大きく向上させるが、それは同時に、多くの労働者から仕事を奪う。こうした解雇は、ブルーカラー、ホワイトカラーの区別なく行われる。高度な教育を受けたホワイトカラー層も、AIが競争相手では勝ち目はない。
そして、不平等の危機。AIは世界の経済的不平等を悪化させる。AI搭載ロボットは製造業に革命を起こし、低賃金の労働者を抱える第三世界の工場を廃業に追い込む。そのため、貧困国は停滞するが、一方でAI超大国は飛躍する。
だが、そうした技術大国でも、AIは持てる者と持たざる者との格差を広げる。増え続けるデータ量によって正のフィードバック・ループが生まれると、価格下落と同時に企業間の競争が消え、自然と独占に向かう。そしてAIで成功した巨大企業の利益は、空前の規模になる。
編集部のコメント
近年、AI(人工知能)がすさまじいスピードで進化を遂げています。特に、大規模言語モデル(LLM)のChatGPTやディープシークの登場は、世界に衝撃を与えました。
では、AIがこの先も進化し続けた場合、世界はより良いものになるのでしょうか?
中国AI業界の先駆者である李開復氏の見立ては、決して明るいものではありません。
李開復氏は、台湾生まれの投資家です。11歳で渡米し、コロンビア大学でコンピュータサイエンスを学んだ後、カーネギーメロン大学の博士課程でAIを研究します。その後、アップルやマイクロソフトで活躍し、2005~09年にはグーグル中国法人の社長を務めました。現在は、中国の次世代ハイテク企業を育てることを目的としたベンチャーキャピタル「シノベーション・ベンチャーズ」を創設し、350社以上に投資しています。
そんな李氏によれば、今後、AIの進歩によって人々の仕事が奪われるだけでなく、上掲の通り、世界中の富がアメリカと中国に集中し、貧富の格差が激化するリスクがあるといいます。そして未来は、米中以外に何も残らない世界になる、と警鐘を鳴らします。
こうしたAI危機の本質を知り、未来への備えをするために、『AI世界秩序 米中が支配する「雇用なき未来」』は大いに参考となるでしょう。これからAI時代を生きる若手のビジネスパーソンには、特に手にとっていただきたい1冊です。