2001年7月号掲載

老荘思想に学ぶ人間学

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著者紹介

概要

老子と荘子の2人の考えからなる「老荘思想」は、今から2400年ほど前、中国の春秋戦国時代に生まれたもの。「あるがままの人間の姿、世間の姿を見よ」というその思想は、ともすれば競争に明け暮れ、自己嫌悪やストレスに悩まされている現代人にとって、思いがけない薬効を与えてくれる。本書では、境野勝悟氏がこの老荘思想の要諦を易しく解説する。

要約

老荘思想は「下り坂」の哲学

 人は誰も、いずれは次の世代に道を譲り、自分で自分の老いをまっとうしていかなければならない。そういう時に大きな支えとなるのが、老子の教えである。

 老荘思想のポイントは、「下り坂」だからこそ多くの友達と交わり、より元気に明るく、あらゆるものを味わおうということ。そしてそのためには物事をどう捉えればよいのか、ということを明らかにする。

 人はともすると、自分のしてきたことを絶対視してその倫理観に固執し、老醜をさらしてしまう。

 だが、別のものにも価値はあるのだ。「これもいいが、それもいい」のである。この「も」を私たちはなかなか言えないが、それを言うための哲学的な工夫が、老子の考え方だといえよう。

 『老子』の中に、次のような文章がある。

 「名と身と孰れが親しき。身と貨と孰れか多れる。得ると亡ふと孰れか病しき。甚だ愛すれば必ず大いに費し、多く藏すれば必ず厚く亡ふ。足るを知れば辱しめられず、止まるを知れば殆からず」

 善悪の価値観とともに名誉と金が、人を混乱させたり、破局に導く元となる。これが人間にとっての大きな問題だ、と老子は言う。

 そして、健康と財貨のいずれが大切で、名誉や財貨を得るのと失うのとでは、どちらが楽でどちらが苦しいか、と問うている。

 ここで老子が言っているのは、財産や名誉を持ってはいけないということではない。「持ってもいいが、こだわるな」と言っているのである。

 下り坂を迎えたら、「ま、このへん」ということを心得ること。すなわち「足るを知れば辱しめられず、止まるを知れば殆からず」なのである。

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