2001年10月号掲載
人物を修める 東洋思想十講
著者紹介
概要
本書は、1977年に「東洋思想十講」と題してまとめられた安岡正篤氏の講演録を、改題したものである。「人の人たるゆえんは、実に『道徳』を持っておるということ」と言う氏が、その深い学識に基づいて、仏教、儒教、老荘など、東洋思想の哲理を解き明かし、人物を高めるためにはどうすべきかを示す。“安岡人間学”の真髄が味わえる1冊。
要約
思考の3原則
「多忙」は、現代社会に共通の現象であるが、人間、忙しいと自分の大事な心まで失ってしまう。
それは、「忙」の字が「忄(りっしん)」偏に「亡」と書いてあることから見ても、よくわかる。
幕府の大学総長の職に長くあった佐藤一斎は、『重職心得箇条』を著した。
これは、およそ重役たる者はぜひとも読むべき文献の1つだが、その中で「重役たる者は忙しいということを口にしてはいけない」と言っている。
つまり、忙しいと、文字通り心が亡して、大事なものが抜けてしまうからである。大事なものを失うようでは、重役としての務めは果たせない。
では、大事なものを失わないためにはどうすればよいのか。それについては、「相」―― みるという字が1つの答えとなる。
「相」という字は、木偏に目という字を書く。同じみるでも「見」の方は、目が二本足の上に乗っている。つまり、立ったまま低い所から見るので、あまり遠方は見えない。
これに対して「相」は、木に登って高い所から見るので、先が見通せる。
先を見通すことができて初めて、迷っている者、目先の利かない者に対して教え、助けることができる。そこで相の字を「たすける」とも読む。
とかく人間というものは、手っ取り早く安易にということが先に立って、そのために目先にとらわれたりして、物事の本質を見失いがちである。
これでは本当の結論は出ない。ものを考える際は、次の3つの原則を心得ておかねばならない。