2010年5月号掲載
人物を創る人間学
著者紹介
概要
故・安岡正篤氏の高弟・伊與田覺氏が行った、「人間学」についての講演をまとめたもの。「人間学とは何か」と題した第1講では、人間学の定義や、それを学ぶ意義などについて、第2~6講では、人間学の基本中の基本である中国古典 ―― 『大学』『小学』『論語』『易経』『中庸』の教えをやさしく解説する。人間学を学ぶ上で、格好の入門書といえる1冊である。
要約
人間学とは何か
「成人」という言葉には、2つの意味がある。
1つは、成年に達しているということ。これは、特別の努力をしなくとも、飯を食っておれば自ずと20歳に到達する。
もう1つは、「人と成る」という意味である。すなわち、立派な人物になるということで、そのためには、特別な努力 ――「人間学」を修める必要がある。
この人間学は、「小学」「大学」「中学」の三学から成る。
「小学」は「修己修身の学」
小学とは、「小人」の学である。
ここでいう小人とは、一般の人のこと。つまり、人として誰もがわきまえておくべき基本的なことを学ぶ学問が小学だ。
換言すると、小学は常識であり、常識を身につける学校が小学校である。
小学では自己自身を修めること、「修己修身の教え」が説かれる。
昔、小学校には修身という学科があった。いわば道徳の時間で、小学校教育の一番の基本の科目であった。ところが戦後、占領政策による教育行政の大変更で修身科は外された。小学の根本ともいえる科目が廃止になったのである。
こうして、日本が古来受け継いできた国民の社会常識という歴史の縦糸は切れてしまった。
その結果、何が起こっているかというと、損得だけが優先される「無責任社会」の出現である。