2010年12月号掲載
イノベーションの知恵
著者紹介
概要
イノベーションを成功させる上で大切なものとは? その答えを求め、著者たちは、全長が軽自動車より40cmも短い超小型車「iQ」を開発したトヨタ、汚染の進む霞ヶ浦の再生に取り組んだNPO法人「アサザ基金」等々、大きな変革を成し遂げた事例を取材。リーダーやメンバーがどう考え、行動したかを分析し、イノベーションを成功させるカギを見つけ出す。
要約
「モノ的発想」から「コト的発想」へ
イノベーションを成功させることのできるリーダーは、どのように物事を見て、どんなふうに考え、いかに行動しているのか。
それを知ることで、イノベーションを起こすためのヒントが得られるはずである ―― 。
* * *
2008年、トヨタが非常にオリジナリティの高いクルマを発売し、話題を呼んだ。超小型車「iQ」である。
iQは徹底して小型化を追求したクルマだった。全長は2.985m。軽自動車より40cmも短い。それでいて定員4人という、室内の広さを実現した。
iQの開発は05年初頭、チーフエンジニアに抜擢された中嶋裕樹氏が、専務に「パッケージングの革新」を命じられた時から始まった。
パッケージングとは、エンジンやタイヤ、座席などの基本レイアウトで、室内の広さを左右する。全長に対する室内長や全幅に対する室内幅をいかに効率よくとるか、クルマづくりにおける「永遠の課題」であり、トヨタでも過去、数々の車種で追求された。
しかし、開発陣の間にどこか行きづまり感が出ていた。それを突き破ることを求められたのだ。
目指すクルマは、コンパクト車の本場ヨーロッパを主戦場に想定していた。そこで、中嶋氏はヨーロッパへ飛んだ。
氏はイタリアやフランスの田舎道を走り、クルマの使われ方を見続けた。そして、イタリアのある空港で、異様に小さな駐車場に目を奪われた。
そこには「全長3m未満のクルマのみ駐車可」と書かれていた。これは事実上、ダイムラー社の2人乗り超小型車「スマート」専用を意味した。