2011年8月号掲載
人生を考えるヒント ニーチェの言葉から
著者紹介
概要
『ツァラトゥストラかく語りき』などの著書で知られるドイツの哲学者、ニーチェ。彼の言葉に魅せられたという著者が、その箴言の数々を通して、難解とされるニーチェの思想をやさしく解説した。他人とどう付き合うか、孤独とどう向き合うか、どうしたら自信が生まれるか等々、悩み多き人生を生きる我々に、より良く生きるための智恵を授けてくれる1冊である。
要約
ニーチェの言葉
ある言葉と出会うこと、それは、ある人と出会うことに等しい。会ったことのない人でも、その言葉を通して身近に感じることができる。
その言葉を通して私が最も身近に感じ、その言葉を幾たびも心の中で反芻している人物、それがドイツの哲学者、ニーチェである。
彼の言葉には、貴重なメッセージが込められている ―― 。
* * *
人間は赤い頬をした動物である。なぜ赤い頬になったのか。あまりにもしばしば自分を恥じねばならなかったからである。
なぜ恥ずかしい思いに襲われると、人間の頬は赤くなるのだろうか。きっと、頬に血液が集中するのであろう。しかし、なぜそんな時に限って、血液がそんな場所に集中するのだろうか。
いろいろ調べてみたが、答は得られなかった。要するに、人間はそういうふうにできているのだとしか言いようがない。
そこで、もう1つの疑問 ―― なぜ人間の頬は、犬や猫のように毛で覆われていないのか。
哺乳動物の中で、体表の大部分が毛で覆われていないのは、人間だけだ。
猫や犬が恥ずかしい思いをしても、顔色で判断することはできない。恐らく、犬や猫が恥ずかしい思いをすることなどないのであろう。恥は、人間だけの感情かもしれない。
もしそうだとすれば、恥の感情こそ、つるつるの頬っぺたとともに、人類が進化の途上で獲得した、人間を他の動物から区別する印と言ってよく、これをもって人間を定義するのも一理ある。
「羞恥、羞恥、羞恥 ―― それが人間の歴史なのだ。それゆえ、高潔の士は人を赤面させないよう自戒する」と、ニーチェは冒頭の言葉に続ける。