2011年11月号掲載
世界インフレ襲来
著者紹介
概要
デフレ不況に喘ぐ日本では、デフレの議論が声高に繰り返されている。だが、著者は言う。「世界経済の潮流は、高成長を続ける新興国に主導される形で着実にインフレへと向かっている」。この流れを浮き彫りにすべく、新興国を中心としたインフレ圧力の高まり、原油などの資源価格の高騰等々、現状を詳細に分析、今後の世界経済で起こるであろう事象を見通す。
要約
インフレへと向かう世界の潮流
「インフレ」という黒船がやってくる。
今後、中国、インド、ブラジル、ロシアといった新興国を中心とするインフレ圧力は、日本のデフレ基調に大きな変化をもたらす ―― 。
新興国を中心に強まるインフレ圧力
2008年のリーマン・ショック後の世界経済では、新興国のインフレ圧力と先進国のデフレ圧力とがせめぎ合ってきた。だが今や、前者が後者を凌駕し、世界は着実にインフレへと向かっている。
最近、海外で現地の政策担当者(政府・中央銀行)や機関投資家から聞こえてくるのは、インフレの話ばかりだ。実際、中国、インド、ブラジルなどでは、相次いで利上げが行われている。
例えば、11年5月にインド準備銀行(中央銀行)は政策金利を0.5%引き上げ、7.25%とした。インドが0.5%の利上げを行うのは、08年7月以来で、インフレ警戒姿勢は一段と強まっている。
東南アジア諸国もインフレ対策に頭を悩ませている。タイでは軽油の価格凍結、シンガポールでは国民に対する税還付が実施された。
欧米を中心とする先進国でも、2年以上続いてきた金融緩和が修正される方向だ。
11年4月には欧州中央銀行が、リーマン・ショック直前の08年7月以来、2年9カ月振りに政策金利を1.0%から1.25%へと引き上げた。
欧州域内では、消費者物価上昇率が、「2%未満でその近辺」という欧州中央銀行が掲げる物価安定の基準を上回る状況が続いている。
米国でも、FRB(連邦準備制度理事会)は、10年11月以降実施してきた「QE2(量的金融緩和政策第2弾)」を11年6月でいったん打ち切った。
先進国のデフレ懸念は終焉を迎え、新興国のインフレ圧力が勝利を収めたのである。