2012年9月号掲載
賢人は人生を教えてくれる ローマの哲人 セネカの人生論
著者紹介
概要
『人生の短さについて』の著者、セネカは古代ローマを代表する哲人であり、皇帝ネロの師でもあったが、後にネロの不興を買い自殺を命じられる。その最期は、慌てず騒がず、毅然たる態度だったという。そんな生を生きたセネカは、人生、そして時間をどのように捉えていたのか。彼の著作から、悔いなき人生を送るには、命ある時間をどう使うのが望ましいのかを学ぶ。
要約
ストア哲学
ローマの哲人、ルキウス・アナエウス・セネカ。
紀元前1年(前4年あるいは5年という説もある)に生まれた彼は、悪名高きローマの暴帝ネロの若き日の先生だった。しかし、最後はそのネロに命じられて自殺をしている。
その死に際が見事であったこと、また著作の数が膨大であったこともあって、ローマを代表する思想家として名を馳せている。
彼の哲学は「ストア学派」と呼ばれるものに属している。ストア学派というのは、紀元前335年から紀元前263年頃まで生きたキプロスのゼノンという人が最初に唱えた哲学である。
ゼノンは元来商人で、地中海で商売をしていた。ある時、フェニキアに行った帰りに嵐に遭ってアテネに上陸することになる。そのアテネの本屋で偶然手にしたクセノフォンの『ソクラテスの思い出』を読んだことから、ゼノンは哲学に目覚める。そして、そのままアテネにとどまって哲学の研究を始め、やがてその地に学校を開く。
ゼノンは「ポルチコ」といわれる建物(屋根付きの柱廊)で講義を行った。このポルチコ、別名を「ストア」という。そのため、そこで勉強した人を「ストア学派」というようになったのである。
ゼノンの「徳」を重んじる哲学
このゼノンはアテネでは非常に尊敬を受けて、石像まで建てられている。性格は厳格であり、節制に努め、その哲学は「徳」を重んじた。
ゼノンは、宇宙のシステムは社会のシステムと調和しているものであるという。そこから、「親は子に優しく、子は親に感謝すべきである」「困っている友人がいたら助けなさい」というような人間関係の調和をはかる智恵を授けている。
また、「精神の善は肉体の善に勝る」というような教えもある。ゆえに、病気、貧しさ、苦しさ、喜びなどにはあまり心を動かさないようにして、逆境に耐え、宇宙の意志に従うようにと教えている。そして、感情、情欲などを支配することを教え、かつ実行した。
精神の修養に励んだローマの武人たち
このゼノン=ストア学派の考え方はギリシアで始まったわけだが、ローマになると武人の道徳に非常にマッチした。
果断で断固として行動するけれども、常に平静で品位がある。また、社会的なことには有用な人物であるけれども、外的環境には左右されない。ローマの武人たちは、そういう人物になることを人生の目的として修養に励むようになった。