2012年11月号掲載
「為替」の誤解 通貨から世界の真相が見える
著者紹介
概要
世の中は、とかく一方的な悲観論や楽観論に傾きがち。世界経済についていえば「ドルと米国債は暴落する」「ユーロ圏は解体する」等、あたかも一本調子で落下していくような論調がある。だが長年、経済・市場を見てきた著者は市場は悲観と楽観の間で揺れ動くものだとし、こうした極論を一蹴。表層的な議論の誤りを指摘しつつ、日米欧の通貨・経済の現状を探る。
要約
「空前の円高」の舞台裏
2007年に、米国で住宅バブルが崩壊してから、為替相場(ドル/円相場)はほぼ一貫して円高で推移してきた。中でも、ここ2年ほどは歴史的な円高水準となっている。
欧州債務危機などから「リスクオフ」に傾斜
この値動きの背景にあるのは、リスクテイクに対する市場全体の姿勢だ。
リスクを積極的にとった運用への意欲が高まる場面は、「リスクオン」と呼ばれる。だが最近の市場ではその逆、運用のリスクはできるだけ回避しようとする「リスクオフ」の傾向が強い。
米国の住宅バブル崩壊からすでに5年以上たつが、その後遺症が今なお、為替を含む世界の様々な市場に影響を及ぼし続けているのである。
リスクオフのモードになると、投資家は資金を相対的に安全な通貨・資産へ退避させる。退避先の通貨は、主にドル、円、スイスフランだ。昨今の円高の最大の原因はここにある。
リスクオフによる円買いの「正体」とロジック
では、なぜリスクオフで円が買われるのか。日本経済はずっと低迷し、財政事情も深刻だ。にもかかわらず、なぜ世界のマネーが円に向かうのか。
これについては、外国人の目から見ると「それでも日本は意外に安定しているから」というのが、妥当な答えだ。
特に国債の消化状況については、11年は欧州・米国ともに不安感が漂った。その点、日本国債は国内の余剰マネーによって安定的に消化されており、相場動向も総じて安定している。
そうした安心感から、当面の「お金の置き場」として、円(日本国債)が選ばれているわけだ。
日本の金融システムも、欧米と比べて安定している。1990年バブル崩壊後の不良債権処理がすでに一巡している上に、欧州の銀行とは違い、米国の住宅バブル・証券化商品バブルに深入りしておらず、その崩壊による傷跡が小さかったためだ。
加えて、日銀の金融政策の見通しも安定している。円高・デフレで苦しんでいる現状を見る限り、日銀が利上げすることはこの先当分考えられない。