2012年12月号掲載
林住期
著者紹介
概要
古代インドでは、生涯を「学生期」「家住期」「林住期」「遊行期」の4期に分ける「四住期」という考え方があった。著者の五木寛之氏は、このうちの林住期 ―― 人生の後半、50~75歳の25年間こそ人生のピークだとし、自らの生き甲斐を求め自由に生きよう、と提唱する。古代インドの思想を基に、理想的な後半生の生き方を説き、反響を呼んだベストセラー。
要約
人生の黄金期を求めて
昔の人は、驚くほど短命だった。昭和20年(1945年)、敗戦当時の日本人の平均寿命は49.8歳である。
平成17年現在、これが男性78.53歳、女性85.49歳となっている。それだけではない。現在100歳以上の高齢者は2万8000人以上に達する。さらにこの1年間で5000人以上増えるそうだから、「人生100年」の時代は空想ではない。
人生を仮に100年と考えて、これを4つに分けてみると、まず第1期にあたるのが生まれてからの25年間だ。さらにその後25年間生きて50歳。ここまでを前半生と考えていい。
それに続く50歳から75歳までの時期が、第3期となる。そこから最後の25年間が始まる。
古代インドでは「四住期」という考え方が生まれ、広がった。これは、人生を「学生期」「家住期」「林住期」「遊行期」という4つの時期に区切って、それぞれの生き方を示唆する思想である。
とりあえず学生期と家住期を、人生の前半と考える。今なら50歳までがその時期にあたるのだろうか。そして、林住期と遊行期が後半である。
その人生の後半に、私は注目する。人生のクライマックスは、実はこの後半、ことに50歳から75歳までの林住期にあるのではないか、と最近つくづく思うようになってきたからである。
暮らしのためでなく働くこと
人間は何のために働くのか。それは生きるためだ。生きるために働くとすれば、生きることが目的で、働くことは手段ではないのか。今私たちは、そこが逆になっているのではないかと感じる。
働くことが目的になっていて、よりよく生きてはいないと、ふと感じることがあるのだ。人間本来の生き方とは何か。そのことを考える余裕さえなしに必死で働いている。
乱暴な言い方だが、私は、現代に生きる人々は50歳でいったんリタイアしてはどうかと思う。実際には60歳、それ以上まで働くこともあるだろう。しかし、心は、50歳で一区切りつけていいのではあるまいか。
その区切りとは、できることなら50~75歳の林住期を、生活のためでなく生きることである。