2013年1月号掲載
丁寧を武器にする なぜ小山ロールは1日1600本売れるのか?
著者紹介
概要
2011年、世界最大のチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ」で、初出展で最高位を獲得したパティシエ エス コヤマ。その店は、交通の便が悪い、兵庫県三田にある。しかも支店を一切出さず、鮮度が命の生ケーキはネット販売をしない。そんなやり方を貫く、小山進氏が仕事哲学を語った。ものが溢れる時代のものづくり、経営のあり方を考えさせられる1冊だ。
要約
「丁寧」という力を武器にしよう
パティシエ エス コヤマは、開店して9年になるケーキ屋だ。最初は1店舗で始めたが、今は約1500坪の敷地内に6つの店が点在し、ギフトサロンやお菓子教室なども備えている。
僕は、ケーキ屋は普通の企業と根本的には変わらないと考えている。スタッフの指導は不可欠だし、商品を生み出し、コストも計算しなければならない。おそらく、普通の企業に勤めるビジネスパーソンと同じことで悩み、苦労しているだろう。
どんなジャンルの仕事であっても、「丁寧な力」こそ仕事の基礎力になる。さらに、それは海外で通用する武器にもなる。僕は海外で修業した経験はないが、丁寧な力が認められて、2011年、海外のコンクールで最高評価をいただいた。
僕は、その時その時、目の前にあることをただ一生懸命に取り組んできた。それはケーキに限らず、ケーキのパッケージ、リーフレット、店のレイアウトや庭の作り方、お客様への応対やスタッフの育成など、全てのことに対してである。今考えると、それが丁寧な力であるかもしれない。
なぜ、小山ロールは1日1600本売れるのか?
エスコヤマでは、毎朝お客様が早い時間から開店を待ってくださっている。お客様の一番のお目当ては「小山ロール」だ。これは店の目玉商品で、1本1260円のロールケーキである。今までの最高で1日1600本も作らせていただいた。
普通は原価をかけたら、商品の値段を高く設定するだろう。だが、僕は店にとってのコストパフォーマンスより、お客様にとってのコストパフォーマンスを優先したい。お客様に喜んでいただくには、最上の材料を使って、お客様にとっての適正価格で提供するしか考えられない。
そこで妥協しなかったから、ファンは加速度的に増えて、1600本になったのだと思う。
ロールケーキを看板商品にしようと決めたのは、エスコヤマを唯一無二の店にしたかったからだ。
ロールケーキは、どこのケーキ屋にもある定番アイテムだ。それをメイン商品にすると、お客様が比較しやすいと思ったのだ。
その頃、僕の頭の中にあふれたキーワードは「水や空気のように、人の好みを超えたものを作りたい」「普通じゃダメ、とびきりでないと」といった言葉だった。
全ての世代に受け入れられるような、普遍的なロールケーキを作りたい。そのために、どのようなロールケーキにすればいいのか。