2013年7月号掲載
俺の考え
著者紹介
概要
世界に日本の自動車エンジンの優秀さを知らしめた天才技術者、名経営者の本田宗一郎氏が仕事観、人生観を語る。「人生は信用とカネの天びん棒」「人づくりは『ジョーク』から」「アイデアこそ資本」…。氏が亡くなって20年余りたつが、綴られた言葉は今なお新鮮で、多くのことを教えてくれる。何気ない言葉に深い意味が潜んだ、味わい深いエッセイ集である。
要約
本田宗一郎の人生観、仕事観
今、徳川家康とか孫子の兵法とかが、経営者の間で読まれているという。私には、どうもこれはおかしいように思える。
今まで実行型の織田信長を勉強していて、不景気になったからといってすぐに「鳴くまで待とうほととぎす」の徳川家康はどうにも納得いかない。
それは習わないよりはいいかもしれないけれども、しかし世の中は変わっている。真理というものは同じかもしれないが、私はそんなに即効的にきいてくるとは思わない。
我々の知恵は、見たり、聞いたり、試したりの3つの知恵で大体できている。そのうち、見たり聞いたりなんてものは迫力もないし、人に訴える力もない。試したという知恵、これが人を感動させ、しかも自分の本当の身になる知恵だと思う。
何も徳川家康を読まなくても、真理は我々の周辺にはいくらでも転がっているはずだ。それをくみとったか、くみとらないかだけの問題である。
だからまず、そのくみとる力をマスターすることの方が大事だ。それは何かというと、自分をよく見つめること以外に何ものもないと思う。それが、事業を発展させる基本である。
人生は信用とカネの天びん棒
人間というものは人よりいい生活をしたい、世間から人より高く評価してもらいたいと思っている。これは我々、凡人の常である。
しかし、そこで考えねばならないのは、では、えらさとは何かということだ。それは、いかに世の中に貢献したかというのが尺度になると思う。その貢献した度合いによってえらさが決まる。
それでは、その貢献はどういうふうなことで得られるかといえば、自分も満足し、人も認めるところによってのみ成立する。
その相互関係のうちで、まず自分というものをおさめずして、決してえらさはあり得ないし、それから自分に信用がなくては、やはりえらさはあり得ない。だから、まず我々はどうしても自分というものをおさめなければならないのである。
それでは自分をおさめるにはどういう要素があるかというと、大づかみにいって、信用とカネの2つで成り立つと思えば間違いない。