2014年3月号掲載
少しだけ、無理をして生きる
著者紹介
概要
城山三郎氏が人間の魅力、生き方について語った1冊。「少しだけ無理をしてみる」と題した話では、作家・伊藤整らの話を引き、「自分を壊すほどの激しい無理をするのではなく、少しだけ無理をして生きることで、やがて大きな実りをもたらしてくれる」と述べる。その他、小説の題材とした人物など、様々な人の逸話を交え、真の人間の魅力とは何か、大いに語る。
要約
初心が魅力を作る
魅力とは何か、非常に定義しにくい言葉である。
けれども逆に、〈魅力がない〉とは何かを考えてみると、こちらはわかりやすい。例えば、型にはまった人。これは魅力がない。
型にはまる、というのを、〈椅子〉と置き換えてもいいだろう。
日本の会社をのぞいてみると、平社員だと小さな机に座っている。係長になると少し大きくなって、社長になるとものすごく大きな机に座る。
態度も、椅子に比例してだんだん大きくなっていく。平社員のうちは小さくなっているけれども、机が大きくなるにつれて尊大になってきて、社長になるとふんぞり返っている。
こういう人間は詰まらない。椅子に支配されたり、椅子をかさにきたり、椅子に引きずられたり、そんな人間が一番魅力がない。
とすると、椅子の力とは全く関係なしに生きている人間ほど魅力的だ、と言えるかもしれない。
比喩的に〈椅子〉と言ったが、しかし、自分の置かれた立場に対して懸命に生きている人間も、これはこれで魅力的なのである。
昔、車掌がいた時代は、春にバスに乗るのが好きだった。新米の車掌さんが一生懸命やっていて、時には間違えたりもして、赤くなったりおどおどしたりもしながら、なおひたむきに働いている。非常に初々しくて、目にも耳にも心地よい。
これが5年経ち、10年経つと、かなりいい加減になってきて、間違えても平気な顔をして、という具合になってくる。
つまり、魅力を作っているのは〈初心〉というものなのである。仕事に対してだけでなく、生きていく姿勢としての初心、初々しさ、というものはいくつになっても大事なんじゃないか。