2016年5月号掲載
スミス先生の道徳の授業 アダム・スミスが経済学よりも伝えたかったこと
Original Title :HOW ADAM SMITH CAN CHANGE YOUR LIFE:An Unexpected Guide to Human Nature and Happiness
著者紹介
概要
アダム・スミスといえば、『国富論』。だが、実は『道徳感情論』という本の著者でもある。経済学と道徳。意外な取り合わせにも思えるが、今日の行動経済学は経済学と心理学の境界を研究している。いわば、彼はその先駆者だ。人間の本性とは。幸福になるには。同書が説く良き人生を送るための教えを、わかりやすく紹介する。
要約
自分を知るには
よい人生とは何だろうか。
250年前に、スコットランドのとある道徳哲学者が『道徳感情論』という本を書いて、この問題に取り組んだ。著者は誰あろう、『国富論』で有名な、かのアダム・スミスだ。
『道徳感情論』は、今日ではほとんど忘れられている。私もずっと読んだことがなかったが、必要があって読み始めたところ、虜になった。
この本を読んで、人間を見る目が変わった。もっと重要なのは、自分を見る目が変わったことだ。
人生から最も多くを得たいなら、『道徳感情論』で語られたことを理解する方が、おそらく『国富論』を理解するより大切だ ―― 。
アダム・スミスが見抜いた「人間の本性」
人間は自分の小指を失うかもしれないことの方が、遠く離れた異国で数万人が死んだことより気にかかる。スミス先生は1759年に早くも、そのことを見抜いていた。これが人間の本性なのだ。
先生は、次のように語っている。
―― 清という大帝国が地震で一瞬のうちに消えたとしよう。中国とは何の関係もないヨーロッパに住む1人の慈悲深い男が、この知らせを受け取るとどうするか。思うに彼は、不幸に見舞われた人々に深い哀悼の意を捧げるだろう。しかしその後は、落ち着き払って仕事に戻るだろう。これに対して、自分の身に起きたごく些細な災難は心底彼を困らせる。例えば明日、自分の小指を切られることになったら、今晩は眠れないだろう。
他人の痛みを理解する能力は、自分の痛みを感じる能力よりはるかに小さいというわけである。
確かにその通り。だが、私たちは本当に大勢の人の破滅より自分の小指を気にかけるのだろうか。
『道徳感情論』の冒頭の文章は、こうだ。