2017年4月号掲載
「原因と結果」の経済学 データから真実を見抜く思考法
著者紹介
概要
「メタボ健診を受けていれば長生きできる」。そう言われると、うなずく人は多い。だが、実際は違う。正しいと思うのは、「因果関係」と「相関関係」を混同しているから ―― 。2つのことがらが本当に「原因と結果」の関係なのかどうか。経済学や統計学の最新の知見を背景に、データから真実を見抜く思考法をやさしく解説する。
要約
根拠のない通説にだまされないために
まずは、次のような問いを投げかけたい。
・メタボ健診を受けていれば長生きできるのか
・テレビを見せると子どもの学力は下がるのか
「イエス」と答えた人は多いはずだ。しかし、経済学の有力な研究は、これらをすべて否定する。これらの問いにイエスと答えてしまうのは「因果関係」と「相関関係」を混同しているからである。
2つのことがら(変数)のうち、片方が原因となって、もう片方が結果として生じた場合、この2つの間には「因果関係」があるという。
一方、片方につられて、もう片方も変化しているように見えるものの、原因と結果の関係にない場合は「相関関係」があるという。
因果関係を確認する3つのチェックポイント
2つの変数の関係が因果関係なのか、相関関係なのか。それを確認するために、次の3つのことを疑ってかかることをおすすめしたい。
①「まったくの偶然」ではないか
「地球温暖化が進むと、海賊の数が減る」というデータがある。しかし、常識的には「地球温暖化が進んだから海賊が減った」とは考えにくい。一見、この2つの間に関係があるように見えるのは、「まったくの偶然」である。
このように、単なる偶然にすぎないのだが、2つの変数がよく似た動きをすることを「見せかけの相関」と呼ぶ。因果関係かどうかを検討する時には、2つの変数の関係が偶然にすぎないのではないか、とまず疑うことが重要である。
②「第3の変数」は存在していないか
次に疑ってかからなければならないのは、原因と結果の両方に影響を与える「第3の変数」の存在だ。専門用語で「交絡因子」と呼ぶ。
これは、相関関係にすぎないものを因果関係があるかのように見せてしまう厄介者だ。