2017年5月号掲載
顧客視点の企業戦略 アンバサダープログラム的思考
著者紹介
概要
インターネットやソーシャルメディアが普及した今、テレビCMを打たなくても、ツイッターなどで話題になれば、早々に商品が売り切れる。こうした成功を手にするカギは、真の「顧客視点」に立ち、「アンバサダー」(企業を積極的に応援してくれる顧客)を増やすこと。本書は、そのために取り組むべき戦略を、具体的に説く。
要約
顧客視点がないと「マーケティング」ではない
「顧客視点が大事」「顧客視点で考えろ」。
この「顧客視点」という言葉は、どの企業でもよく聞く。ただ、頻繁に使われる割には、実態と合っていないことが多い。
世の中には、あらためて顧客視点で考えると、おかしい出来事がたくさんある。
新規顧客に極端に偏った優遇施策
以前、携帯キャリアの間で、数万円の高額なキャッシュバックで乗り換えを推奨する方法が常態化した。通信会社を乗り換えず、長く同じ会社を使っている顧客にすれば、別の会社から乗り換えた新規顧客が数万円をもらえるというのは、顧客視点の観点で見ると、おかしい話だ。
さらに、物議を醸しているのはネットを活用した広告手法の数々だ。動画を再生しようと思いボタンを押すと強制的に表示される広告、サイトを閲覧したことをきっかけにどこまでも追いかけてくるバナー広告…。果たしてこれらは、顧客視点のコミュニケーションといえるのだろうか。
なぜ、こんなことが起こるのか。それは、日本が「マス・マーケティング」の全盛期だった高度経済成長期において、新規顧客の獲得が極端に重視されたからだ。市場が成長している時代は、新規顧客の獲得、自社のシェア拡大に注力しがちだ。その競争が続き、行き過ぎてしまった象徴といえるのが、携帯キャリア同士の顧客獲得合戦だ。
企業が顧客よりも優位だった「マス」の時代
ここでポイントとなるのが、企業側と顧客側の情報格差だ。マス・マーケティング時代には、企業と顧客のコミュニケーションは企業側が主導権を握っていた。顧客はあくまで「消費者」であり、企業側に比べると圧倒的に情報量や知識が少なかった。顧客が商品やサービスの情報を得るための情報源はテレビや新聞、雑誌、ラジオなどのマスメディアが中心だった。
「マスマーケット」に対して、「マスプロダクション」した製品を、「マス広告」を通じて売り込む。マス・マーケティング時代は、企業活動全体がこの「マス」というキーワードに最適化されていた時代といえるだろう。
しかし、そうした企業側が極端に有利な時代は、インターネットやソーシャルメディアの普及により、終わりを告げようとしている。
顧客をファンに、ファンをアンバサダーに
企業と顧客の関係は、インターネットやソーシャルメディア、スマートフォンの普及により180度変わった。ポイントは、次の3点だ。
- ・顧客の情報収集能力が飛躍的に高まった
- ・顧客の声が可視化されるようになった
- ・顧客の声が伝播するようになった
例えば、ハーゲンダッツが開発したおもちが入ったアイスクリーム、「華もち」。2015年2月の発売当初からツイッター上などで話題になり、本格的なプロモーションをする前に売り切れた。