2017年9月号掲載
突破するデザイン あふれるビジョンから最高のヒットをつくる
Original Title :OVERCROWDED:Designing Meaningful Products in a World Awash with Ideas
著者紹介
概要
人の心を揺さぶるヒット商品を生み出すには? 企業戦略・デザインの専門家である著者によれば、不可欠なのは、モノやサービスの意味を変える「意味のイノベーション」。問題解決を目的とする従来のイノベーションではなく、取り組むべき問題を再定義し、新たな価値を創造することで、人々に愛される商品が生み出せるという。
要約
新たなイノベーションの登場
「トニー、ぜひ君と一緒に新しいビジネスを始めたいんだ」。マット・ロジャースが、トニー・ファデルに言った。
「どんなビジネスを考えているんだい?」
「スマートホームのビジネスさ」
「それはないよ。誰もスマートホームなんて欲しくないし、あれはマニア向けに過ぎない」
「僕が今、家を建てていることは知っているよね。僕はその家を愛着があるものであふれさせたい。そして、最新の技術を使ってエネルギー効率を高めたいんだ。でも、気に入らないことがたくさんある。例えば、サーモスタットだ。心から愛せるサーモスタットをつくりたいんだ…」
この会話から5年後、2人は起業していた。「ネストラボ」だ。その初めての製品が、今人々に愛されているサーモスタットである。
ネストラボは2011年からの3年間で、1つ249ドルという価格ながら100万個ものサーモスタットを売り、20億kW/時ものエネルギーを節約した。そして2014年、彼らはグーグルに32億ドルで会社を売却した。
*
ファデルとロジャースは、なぜ成功できたのか。その秘密は、イノベーションの手法にある。彼らは、過去20年間言われてきたことと真逆のことを行ったのだ。
これまで多くの企業が、イノベーションの参考書に書かれた方法を実践してきた。ブレインストーミングを行い、ユーザーを観察し、他者からの大量のアイデアに接してきた。しかし、いまだビッグチャンスをつかむのに苦戦している。
2人はブレインストーミングなどしなかった。外部のアイデアを取り入れず、彼ら自身のビジョンからアイデアづくりを始めたのだ。