2018年5月号掲載
世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略
著者紹介
概要
世界最先端のマーケティングとは、「チャネルシフト戦略」のこと。ネットとリアルを融合させ、顧客と強くつながり、自ら事業変革を導くことで、他社が真似できない戦い方をつくりだす。アマゾンをはじめ国内外の成功企業が実践する戦い方だ。これは、具体的にどのようなもので、いかに実践すべきか、多数の事例を交え解説する。
要約
アマゾンの脅威
2016年12月、アマゾンから「アマゾンダッシュ」という小さなボタンが日本で発売された。
ボタンには、飲料や洗濯洗剤などのブランド名が印字されている。これは、その特定銘柄をアマゾンで購入するための専用ボタンだ。
冷蔵庫のトビラや洗濯機などに取り付けておき、「そろそろ買い足しておこうかな」と思ったら、ボタンを押す。それだけでアマゾンヘの注文が完了し、商品が届くという仕組みだ。
アマゾンダッシュは、チャネルという視点から見ると、これまでのパラダイムを大きく変えるほどの衝撃を与える“大物”だ。その革新性は、「オンライン購入のゲートを、自宅というオフライン空間に出現させた」ことにある。
これまで商品を購入するためには、アマゾンのウェブサイトにスマートフォンやPCからアクセスする必要があった。そこで欲しい商品を検索して選択し、購入ボタンを押す。選択も購入も、すべてオンラインにアクセスして行われていた。
しかしこのボタンがあれば、その必要はない。事前に欲しい銘柄を決め、その銘柄のアマゾンダッシュを台所に貼ってしまえば、店舗に行くことも、商品を探すことも一切なくなる。顧客からすれば、これまでにない購買体験であり、アマゾンは顧客を完全に囲い込むことに成功している。
オンライン店舗に引っぱり込む
従来のチャネルをめぐる議論は、「オンライン店舗VSオフライン店舗」の対立を軸としたものが多かった。そこでは、「顧客がどちらかの店舗を選んで買い物をする」という前提に立っていた。顧客はまず店舗を選んでアクセスし、そこで商品の選択から購入まで完了するという考え方だ。
だが、アマゾンダッシュの発想にはそうした前提がない。オンライン店舗を基点にしながらも、そこに導くための接点をオフラインに置くという考え方である。オンラインとオフラインを機能的に組み合わせ、顧客を取り込もうとしている。
つまり、アマゾンは「顧客はオンラインとオフラインのチャネルを行ったり来たりしながら買い物をする」という前提に立っているのだ。
アマゾンダッシュの登場は、チャネルを「店舗ありき」という呪縛から解き放つと同時に、オフラインに軸足を置く企業にとっての新しい戦いの幕開けを示唆している。
チャネルシフト戦略の3つの要素
アマゾンが実践するこの戦い方こそ、本書が注目する「チャネルシフト戦略」だ。すなわち、