2018年5月号掲載
常在戦場 金川千尋100の実践録
著者紹介
概要
いつも戦場にいることを忘れず、いつでも戦えるように備えよ ―― 。「常在戦場」の言葉を胸に、信越化学工業を世界屈指の優良企業に育てあげた金川千尋氏が、組織のあり方や経営の本質、リーダーの心得を語った。経営の世界という戦場で、半世紀近く戦い続けてきた氏ならではの“経営の要諦”が明かされる。
要約
いつでも戦えるように備えよ
1926年創業の信越化学工業(以下、信越化学)は、世界シェアトップの塩化ビニール樹脂と半導体シリコンウエハー、電子材料などを扱っている。
信越化学が今も絶えず成長しているように、私自身も経営者として成長を常に追い求めてきた。1975年の取締役就任から、会長を務める現在まで、実に半世紀近い経営者人生である。
それだけ仕事を続けることができたのは、多くの人の支えがあったからだ。また、歴史上の偉人も見守ってくれている。私の執務室には、山本五十六連合艦隊司令長官の写真が飾られている。尊敬する長官の名言を、私は人生の指針としてきた。
なかでも私が好きなのは「常在戦場」という言葉だ。いつも戦場にいることを忘れず、いつでも戦えるように備えよ ―― まさにこの精神で、私は経営に当たってきた。
会社に評論家は要らない
私は1990年に信越化学の社長に就任し、以来様々な改革を行った。そうした改革の1つが、無駄な会議を徹底的に省くことである。
まず、月2回開かれていた取締役会を1回に減らした。さらに1回当たりの時間も半分に縮めた。経営陣自らが「無駄な会議はしない」との範を示すことで、最終的には、あらゆる会議の時間が3分の1以下に短縮された。
ただし、会議を改革した結果、やるべき議論が行われなければ本末転倒なので、時間を短縮する一方で、議論の質は高めるようにした。より濃密な議論がなされるように、参加者を絞ったのだ。
そもそも重要事項を決める場合、その事業を深く理解している人間が議論しなければ、意義のある結論を導き出すことはできない。中途半端な立場の者が集まっても烏合の衆に過ぎない。
会議の目的は、具体的な戦術を練り、意思決定を下すことだ。そうした目的を共有することなく、第三者的な立場から思いつきで意見を述べるような会議は必要ない。
会社に評論家は要らないのである。
官僚主義を打破して合理的な経営に邁進する
企業にとって重要なのはスピードと合理性である。そしてそれらを実現するためには、トップの方針を速やかに社内に浸透させることが必要だ。