人を育てるために私が気をつけていることが2つある。
1つめは、能力を見極めることだ。もっとも、能力のある人は過去の実績を見ればわかる。
2つめは、そうやって見出した能力のある人に対して、能力以上の仕事を与えて育てるということだ。
解説
日本を代表する化学メーカー、信越化学工業。同社を世界屈指の優良企業に育てあげた金川千尋氏は、会社の力を決定づける要因の1つとして「上に立つ人の能力の高さ」を挙げる。能力の高い人をいかに多く育てるかが、会社の命運を決めるというのだ。
では、能力の高い人はどうしたら育てられるのか。その答えが、上掲の言葉である。
氏は、能力のある人には「倍の仕事」を与えて育てるのが一番だと説く。例えば、その人の能力が現状で100だとすれば、150とか200の目標を与えるのである。
一見、無茶なやり方と思われるかもしれない。しかし、100の能力に対して100の仕事をしている時は、忙しそうに見えても実は余力があるものだ。そこに150とか200の仕事を与えると、頭を使い、無駄を省いて効率よく仕事をするようになる。結果的に、200の仕事ができる能力が身につくのである。
編集部のコメント
信越化学工業株式会社は、世界シェアトップの塩化ビニール樹脂と半導体シリコンウエハーに加え、シリコーン樹脂、電子材料などを扱う、日本を代表する化学メーカーです。時価総額では、世界の化学メーカーのランキングで第4位に位置しています。
同社を世界屈指の高収益企業に育て上げたのが、金川千尋氏です。氏は1975年に同社の取締役となり、1990年には社長、2010年には会長に就任。2023年に亡くなるまで、実に半世紀近い経営者人生を歩まれました。この間、同社の業績は、13期連続最高益、時価総額5兆円を達成するなど、大きく向上しています。
そんな氏が人生の中で会得した、100の言葉をまとめたのが本書『常在戦場 金川千尋100の実践録』です。上掲の言葉の他、組織の在り方や経営の本質、リーダーの心得…。経営の世界という戦場で、長年戦い続けてきた氏ならではの“経営の要諦”が明かされています。
本書のタイトルにもなっている、「常在戦場」もその1つ。いつも戦場にいることを忘れず、いつでも戦えるように備えよ ―― この山本五十六連合艦隊司令長官の言葉を、金川氏は人生の指針として胸に刻み、経営にあたってきたといいます。
本書で披露される金川氏の哲学は、経営に携わる方はもちろん、仕事や人生において悩みを抱えるビジネスパーソンにも、きっと参考になることでしょう。