2018年9月号掲載

「学力」の経済学

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著者紹介

概要

著者は、教育経済学者。「教育経済学」とは、データを基に教育を経済学的な手法で分析するもの。その知見は、子育て専門家らが個人的な経験から語る意見より価値が高いという。著者いわく、子どもをご褒美で釣ってもよい、ほめ育てはよくない。従来の教育論とは異なる視点から、「本当に子どもが伸びる教育」を示した1冊だ。

要約

子どもは“ご褒美”で釣ってよい

 私は、教育経済学者である。「教育経済学」は教育を経済学の理論や手法で分析する応用経済学の一分野だ。そして、私が教育を論ずる時、絶対的な信頼を置くのが「データ」である。

 データを用いて教育を経済学的に分析する、この教育経済学が明らかにした「知っておかないともったいないこと」 ―― 教育や子育てに関する発見のいくつかをご紹介しよう。

「目の前ににんじん」作戦を経済学的にひもとく

 「子どもを勉強させるために、ご褒美で釣ってはいけないのか」

 これは、子育て中の友人たちから頻繁に受ける相談だ。実は、経済学はこの問いについて、科学的根拠に基づく答えを持っている。

 「今ちゃんと勉強しておくのが、あなたの将来のためなのよ」。多くの親が口にするこの言葉は、経済学的にも正しい。子どもの頃に勉強しておくことは、将来の収入を高めることにつながるのだ。

 経済学には「教育の収益率」という概念があり、「1年間追加で教育を受けたことによって、その子どもの将来の収入がどれくらい高くなるか」を数字で表す。そして、教育投資への収益率は、株や債券などの金融資産への投資と比べても高いことが、多くの研究で示されている。

 今ちゃんと勉強しておけば将来の収入が高くなることは示されているのに、なぜ子どもは目の前にご褒美がないと勉強しないのか。

 実は、人には目先の利益が大きく見えてしまう性質があり、それゆえ遠い将来のことなら冷静に考えて賢い選択ができても、近い将来のことだと、小さくともすぐ得られる満足を大切にするのだ。

 一方、明日の誕生日に祖父母から5000円の小遣いがもらえるとする。その場合、「1週間延期すると小遣いは5500円になるよ」と言われても、すぐに得られる満足を優先し、明日の5000円を選んでしまう。

 「目先の利益や満足をつい優先してしまう」ということは、裏を返せば「目の前に褒美をぶら下げられると、今、勉強することの利益や満足が高まり、それを優先する」ということでもある。実は、子どもにすぐに得られる褒美を与える「目の前ににんじん」作戦は、この性質を逆に利用し、子どもを今勉強するように仕向ける戦略なのだ。

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