2019年3月号掲載
国家と教養
著者紹介
概要
教養なき国民が国を滅ぼす ―― 。ベストセラー『国家の品格』の著者が、「現代に相応しい教養」のあり方を提言。各国の国民が十分な教養を持たない限り、世界の混迷は永遠に続く。こう語り、今日備えるべき、人文、社会、科学、大衆文化の「教養の4本柱」を示す。実体験や読書により、真に血肉化された教養の必要性が説かれる。
要約
教養はなぜ必要なのか
1991年にバブルが崩壊した。株価は1989年末のピークから半分以下に急落し、株と土地を合わせて1500兆円ほどの資産が日本から失われた。
そして、不況克服という大義名分のもと、日本大改造が始まった。戦後50年間の日本の繁栄を支えてきた日本型システムを、バブル発生と崩壊の真因の分析もせぬまま、葬り始めたのである。
キーワードは「グローバル・スタンダード」。アメリカ帰りのエコノミストらが、終身雇用や、株式持ち合いなどの日本型資本主義を、悪玉に仕立て上げ始めた。そして早急にグローバル・スタンダード ―― アメリカ型資本主義、新自由主義、市場原理主義に改めろ、と言い立てたのだ。
改革によって損なわれた「国柄」
こうして自由競争の名のもとに、改革につぐ改革がなされた。ところが、経済は一向に浮揚しなかった。中小企業など弱者が追いこまれ、地方の駅前商店街がシャッター通り化した。
経済上の変化が、人々の優しさ、思いやり、卑怯を憎む心など、日本の誇るべき情緒までも蝕み始めた。世界でも最も金銭崇拝から遠い国だった日本が、物事を金銭で評価するようになった。
規制緩和により企業は、給料が正規社員の半分以下ですむ非正規社員を増やした。非正規の若者はいつクビになるかわからず、年収も200万円以下。そのため20代での結婚、そして出産数も激減した。少子化が叫ばれると、労働力を補充するという理由で1000万人移民計画が登場。ヒト、カネ、モノが自由に国境を越える、という新自由主義が着々と完成を目指して歩み始めたのである。
私はなぜ、経済改革といいながら社会全体を変えるような劇的改革を、これほど急激に行うのか疑い始め、調べた。すると、アメリカの影が現れた。日本はアメリカからの要求を、不況を心配してくれる親友からの助言と取り、受け入れ続け、国柄という国家最高の価値を失っていったのだ。
価値ある情報を選ぶカギは「教養」
私が調べて知った事実は、すでに書物やネットにいくらでも出ていた。私がしたことは、調べて知った事実を頭の中で整理し、多くの断片的事実を私流につなぎ合わせただけである。
書物やネットにある情報量はほぼ無限だ。だが無限にある情報を適切に取捨選択できない人は、真偽の明らかでない情報、偏った情報、真っ赤な噓ばかり拾いがちだ。
誰しも、自分にとって価値のある情報だけを選択したい、と思っている。それらがその人の判断力の基盤となるからだ。
では人は、どんな物差しで価値ある情報を選んでいるのか。通常は、嗅覚により選択している。その嗅覚は何によって培われるのか。「教養」と、そこから生まれる見識が大きく働いている。