2021年6月号掲載
フランクリン自伝
Original Title :Franklin AUTOBIOGRAPHY
著者紹介
概要
貧しい家庭に生まれながらも、印刷業者として成功し、米国の独立宣言の起草に携わるなど、政治家としても活躍したフランクリン。有名な「13の徳目」をはじめ、彼が成功への歩みの中で行ったことを詳述した本書は、立身出世のバイブルとして、米国ばかりか日本でも読み継がれてきた。この自伝文学の古典を、完訳で紹介する。
要約
成功への道を歩む
息子よ。私のこれまでのことを、お前のために書いてみようと思う。
私は貧しい家に生まれ育ち、そこから身を起こして富裕の人となり、世間に名が知られるようになった。子孫の者からすれば、私がそうなるまでに用いた有益な手段を知りたいと思うだろう。
幸運な生涯を振り返ってみて、もし「お前の好きなようにしてよい」と言われたら、今までの生涯を初めから繰り返すことに少しも異存はない。
だが、こうした繰り返しはできない相談だから、生涯を生き直すのに最も近いことはといえば、生涯を振り返り、思い出したことを筆にして、永久のものにすることではないかと思う。
宗教観
私は、幼い時から本を読むのが好きで、わずかながら手に入る金は、みんな本代に使った。
この本好きの性質を見て、父はボストンで印刷屋をしていた兄の元へ私を奉公に出した。私はここで印刷の仕事を覚えたが、兄と衝突し、ボストンを出奔する。そして、印刷工としてしばらく働いた後、フィラデルフィアで印刷屋を開業した。
さて、私が事業を始めて世間へ打って出る話に入る前に、私の生活信条や道徳観がその後の生涯の出来事にどこまで影響を及ぼしたか、お前にまず話しておいた方がいいだろう。
私の両親は、幼い頃から私に宗教心を植え付け、敬虔に私を非国教派の方向へ導こうとした。
ところが、様々な本を読み、いくつかの点に対して異論が出ているのを知ると、私はそうした点について疑問を持つようになった。そのあげく、天啓そのものさえも疑い始めたのである。
そして私は、人と人との交渉が真実と誠実と廉直とをもってなされることが、人間生活の幸福にとって最も大切だと信じるようになった。
天啓は、私にとって何らの意味を持たなかった。ある種の行為は、天啓によって禁じられているから悪いのではなく、あるいは命じているから善いのでもなく、それらの行為は、本来我々にとって有害であるから禁じられ、あるいは有益であるから命じられているのだろう、と私は考えた。