2021年11月号掲載
〈生きる意味〉を求めて
Original Title :The Unheard Cry for Meaning
著者紹介
概要
社会に蔓延する虚無感、増える若者の自殺…。第二次大戦下、ナチスの強制収容所に送られた精神科医が、現代人が抱える様々な心の問題を論じる。過酷な体験の後、独自の心理療法を生んだ著者は、人は探求すべき“意味”さえ見いだせば、苦しみをも甘受するという。生きる意味を求めてもがく人々に一筋の光を与えてくれる1冊。
要約
意味への叫び
「ロゴセラピー(Logotherapy):意味による治療」 ―― 。
この「意味による治療」という考え方は、心理療法の伝統的なやり方を逆転させるものである。
伝統的な心理療法では、「不安を取り除くと、あなたは幸せになるでしょう」と説く。だが、事はそんなふうにうまくはいかなかった。むしろ、神経症が取り除かれたとしても、そこには、ある空虚さが残されてしまうのである。
今まで、医師たちは患者を1人の人間としてみてきただろうか。意味というものを絶えず探し求める存在として、患者をみてきただろうか。
人は、探求すべき意味さえ見いだすなら、あえて苦しむことも甘受し、もし必要とあらば、そのために自らの命をも捧げる覚悟をするものだ。そのことが、今まで見過ごされてきたのである。
学生の自殺が意味するものとは
この事実を、私は1人の学生のレポートを通して確信した。そのレポートによると、ある米国の大学で自殺を試みた60人の学生のうち、85%が自殺を試みた理由として挙げたのは、「人生が無意味に思えたから」であった。
しかし、そのことよりはるかに重要なことは、人生の無意味感に苦しんでいるこの学生たちの93%が、「社会的には積極的に活動し、学習面でもかなりの成績をとり、家族との関係においてもうまくやっている」学生たちだったことだ。
ここにあるのは、いわば意味を求めて叫んでいるにもかかわらず、耳を傾けてもらうことのなかった叫び声である。
これは、1つの大学に限られるものではない。米国の学生の自殺率の驚くべき高さを考えてみてほしい。第1位の死因、交通事故に次いで、自殺はなんと第2位である。
こうしたことが、豊かな社会の真っ只中で起きている。長い間、私たちは夢を見続けてきたのかもしれない。私たちの見た夢、それは社会経済状況さえ改善すれば、すべてはうまくいき、人々は幸せになるだろうという夢…。
しかし実際のところは、社会経済状況がよくなるにつれて、1つの問いが浮かび上がってきたのである。「何のために生きようとしているのか?」という問いが。