2022年9月号掲載
菜根譚
概要
人間、いかに生きるべきか ―― 。現世を生きる知恵、処世の極意を、『菜根譚』は説く。儒教・仏教・道教の三教に根差した書で、中国の明末を生きた洪自誠が著した。本書は、その全訳。儒・道教と仏教の専門家2人が原典を全面的に見直し、新たな成果をまとめた。『菜根譚』の教えを、日々の暮らしに生かす上で最適の1冊だ。
要約
『菜根譚』の処世訓
『菜根譚』では、人の生き方が、様々な角度から論じられる。例えば ――
真理を住処とする
真理を自分の住家としてこれを守る者は、ある時は不遇で寂しい境涯になるが、権勢によりかかり、おもねりへつらう者は、ある時は栄えても、ついには永遠に寂しくいたましいものである。
真理に達した人は、常に世俗を超越したところに真実を見いだし、この身が終わって後の不朽の名声を得ることに心がけている。
だから、ある時は不遇で寂しい境遇になることはあっても、永遠に寂しくいたましくなるような、権勢におもねる態度をとってはいけない。
長生の道は一歩譲ることから
こみちの狭い場所では、自分から一歩立ちどまりよけて、相手に行かせてやり、またおいしい食べ物は、自分の分を三分ぐらい減らして相手に譲ってやる。このような心がけこそ、この世を生きていく上で、1つの安らかで楽しい方法である。
自らは一歩譲り、他には完全を求めず
人が世の中を生きてゆく時には、自分から一歩を譲ることがよりすぐれた道である。この一歩を譲ることが、それがそのまま一歩を進める根本となるのである。
人を遇する時には、完全なことを求めないで、九分ぐらいに止めて、あとの一分は寛大にして見過ごすようにするのがよいことである。
人を叱責し導く秘訣
人の悪を責める時には、あまりに厳し過ぎるようにはしないで、その人が果たして叱責の言葉を受け容れることができるかどうかの程度を考慮しておく必要がある。
また、人に教えて善い行いをさせる時にも、目標を高く置き過ぎないで、そのことが実行できる範囲にとどめさせるべきである。
初心を忘れず、行く末を見つめて
何か事に行き詰まり、かつての勢力も衰えた人は、その出発点となった時の心をもう一度思い出して考えてみるべきである。
これに対して、功績を成し遂げ事業を十分に果たした人は、その先の行く末をよくよく見極めて、自分の進退を決めることが必要である。